第76号「正月は凧揚げ」(2013年12月18日配信)

 はやいもので今年ももうすぐ大晦日、そして正月だ。息子が幼稚園に通っていた頃は赤坂に住んでいたので、よく家族で近くの代々木公園に行ったものだ。埼玉に転居して、あらためて素晴らしい公園だったと感じている。

この公園には自転車練習場や貸自転車もあって、息子はここで練習して自転車に乗れるようになった。その後は親子で貸自転車を借り、公園をぐるりと取り囲むサイクリングロードを3~4周走って気分転換やら運動不足の解消を図ることができた。
また公園には高さ50~60cm位のコンクリートの柱があったので、息子にこれで跳び箱の練習をさせ、大成功を収める事が出来た。跳び箱を使う練習では、跳べない子はそこに乗っかってしまうからいくらやっても駄目なのだ。

跳び箱ではなくコンクリートの柱で練習すれば、腕の力を抜いてそこに乗っかったら尾てい骨を打ってしまうことになる。乗っかると痛い目に遭う硬い丈夫な円柱が練習には最適なのである。これで練習することによって、両腕で体を支え、かつ両腕で円柱(跳び箱)を後方に押し出す感覚を体で覚えることができる。自分の経験からこれに勝る練習法はないと確信している。跳び箱は誰でも跳べるようになるのだ。

さらにこの公園には冬になると凧揚げをする人達が集るので、私も手作りの凧を持って行き息子と凧揚げをした。息子を喜ばそうと思い、ネットで凧の作り方を学んで蛸が足をくねらせているデザインの凧を作った。しかし走っている間は凧が浮き上がるのだが、止まると同時に落っこちてしまう。何度やってもうまくいかなかった。そもそも私の田舎は雪国で、冬、凧揚げをする風習がない。子供時代、凧揚げをした体験はないので、どうやっていいのかわからないのだ。
しかしながらある運命の日、息子が大喜びで蛸の凧を揚げようと一人走り回り、私は疲れて休憩し、ぼーっと休んでいた。しばらくして、息子の「パパ見てよ」という弾む声で我に返った。見ると息子が黄色いゲイラカイトというタイプの凧を空高く揚げていたのだ。
どうしたのかと聞くとおじさんに貰ったという。凧揚げ同好会のような数人のおじさんたちが凧揚げをしていて、そこのリーダー的な感じの人が息子のあがらない凧揚げを見て同情して自分の凧を一つくださったのだ。私もやってみたらすぐできた。凧は凧自体がよければ、あげ方や走り方は無関係だったのだ。

生まれて初めて凧揚げに成功し、初めて自転車に乗れた時のように嬉しくてしばらくの間夢中になてしまった。ようやく落ち着いてあたりを見ると、その凧揚げ同好会らしき人達は遠くに移動しており、そしてはるか上空の数羽のトンビを指さしてなにやら大声で話していた。
あまりにも上空なのでトンビってあんなに高い所を飛ぶのか、と驚いた。そのうち、数羽のうち一羽はおじさんたちの凧で、糸が切れて漂流していることが分かった。多分、高く揚がった凧につられてトンビも近づいてきて一緒に遊んでいたのではないかと思われた。

はるか上空の風は不思議な動きをするようだ。通常なら風は一方通行に吹き抜けていくが、このときは吹き抜けずに上空でぐるぐる回っていたのだ。糸の切れた凧が長い時間ぐるぐる回りながら少しずつ動いて、まさに漂流しているという感じだった。おじさん達にとって非常に大切な凧らしく、落ちてくるのを待っているのだが、私はいつまでも漂流凧を眺めているわけにもいかず帰宅した。

このおじさんとは何度か話をし、糸が切れて凧が明治神宮まで拾いに行ったなどという話も聞いた。我が家にはこのおじさんたちの一人から貰った大鷲のような黒い大きい凧がある。息子が大きくなってから凧揚げもしなくなったが、今年の正月は久しぶりにこの大凧を大空に揚げてみようかと考えている。
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