第61回「楽しい日本語(その2)」(2011年11月19日)

 家内(はレッキとした日本人です)がしょっちゅうおもしろい日本語をしゃべるので、それをまとめようとしたら意外に思い出せなくて苦労したことがあります(第33回の楽しい日本語)。それ以後、おもしろい言葉や誤解が飛び出す度に書き留めるようにしたのですが、皮肉なことにそれからというもの家内が注意深くなってしまいました。

 事前にことわざ辞典や国語辞典で確認してから話すこともあり、楽しい日本語が昔のようにポンポン飛び出さなくなってしまったのです。それでもいくらか溜まってきたので紹介します。今や我が家では貴重となった数少ない「楽しい日本語」で、これが最後になるかも知れません。

 東京と川越に行く用事が出来、どういう経路で行こうか検討していたら「確か有楽町線が川越の方まで『乗り上げ』ていたよ」というのですが、電車がホームに乗り上げたら大事故です。不安になり有楽町線をやめてJRにしました。いうまでもなく「乗り入れ」のつもりだったのです。
バラマキ行政から自助努力へと話が発展したとき「板橋の商店街なんか『タックル』組んで長崎屋を追い出したんだよ」というのは、意味は十分通じますがやはり「タッグ」でなくちゃ、と思いました。

 TVから音声で聞いているはずなので間違うのが不思議なのですが、液状化を水状化というのがありました。また、タイの大洪水のニュースを見ていたら途中から部屋に入ってきて、画面下部の「河口付近で浸水云々」というテロップを見て「カワグチって何県だっけ?」と言いました。TV画面に映っている風景も人物もどう見ても日本ではないのですが、近頃興味を持ち出した漢字で頭がいっぱいで、テロップしか目に入らなかったのかも知れません。文字が異なるから埼玉県の「川口」市ではない。どこかよその都道府県に「河口」市という市があるのだろうと判断したのであれば大きな進歩です。

 年金支給開始を遅らせるとか、引き下げるとかの報道を見ていて「年金財政こんなになってるのに。東京電気なんてあんな大事故起こしたくせに年金48万だって。許せなくない?」と来ました。会社や人名や商号を自分勝手に言い換えるのはいつものことで、いかに超有名な会社であろうが自由に変更してしまうのです。

 最近は、勉強の成果なのか、間違っていようがいまいがべらべらしゃべるという姿勢が幾分影を潜め、怪しいと自分で思う時は自信なさそうに話すようになりました。「ウチの息子はツケコマシ … 何ていうんだっけ?」「スケコマシか?」「そうそう、それだからさ … 」といった具合です。いい傾向だと思います。ただ、間違えて覚えこんだ言葉で、その後再び世に出る可能性のなくなった言葉は、見直す機会がないまま突然飛び出します。若い人は知らないと思いますが、一世を風靡した植木等のスーダラ節をズータロ節といったのには驚きました。

 息子も幼児期はもちろん、その後も稀に名言を吐き、ナットク会計に登場しましたが、なんだかんだ言っても最近漢検の準2級を突破しました。一応日本語は大丈夫かなと思っているのですが、これが意外なことにいまだにポコポコ名言を吐くのです。
 「下町ロケット書いた人なんか『ウエキショウ』獲ったもんだから昔書いた別の作品まで売れているみたいだよ」というのは、直木賞のことです。漢検準2級の合格証書は返却したらどうだ?といったものの、直木賞の直木さんてどんな人で何を書いたのか余り知られていません。読めなくとも仕方ないかな、と思いました。

 井上揚水の歌に「限りないもの、それは欲望…」(再古い話で恐縮です)というのがありますが、漢字に自信を持ち始めた家内が息子に漢検の2級の勉強を強要しています。準2級では不足のようです。あるとき、家内が直々(じきじき)に漢字を読み上げ、息子がきちんと勉強していたか書き取らせてチェックしていました。ボンヤリ聞いていたら「次は、バイカイ」「そんな漢字(問題集には)なかったよ」と息子が反論しています。

2級なら「媒介」くらい出てもおかしくないなと思って見てみたら「売買(バイバイ)」でした。しかし今回の家内のチョンボは大きな収穫がありました。私もこの熟語を書く時「売買」だか「買売」だか迷ってしまうのです。バイカイと読めば「売」が前で「買」が後ろ、ということは間違えようがありません。

このように、小さなチョンボで大きな成果をつかみたいものだと思いました。


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