第84話 「楽しい日本語(9)」(2014年3月28日)

 どういうわけか我が家の面白い日本語が最近また復活してきた。大分前のことだが、先端科学の応用とすごい執念でひき逃げ犯人を追跡する愛知県警の捜査を報道する番組があった。それをみた家内が大いに感心していた。そしてひき逃げのニュースを見るたびに「愛知県警はすごいんだよね」「愛知県警ならすぐ捕まえちゃうんだけどな」などと言うようになった。そのうち「愛知県警の的中率はすごいんだから」となってきた。
家内は、何度も漢検2級に落ちまくる息子を励ますべく「又落ちたら気ぃ狂ってやる」「今度落ちたら発作起こしてやる」などと例によって不可思議な日本語を連発していた。しかし一向にピリッとしない息子の勉強に業を煮やしたのだろう。かくなるうえはヤマ当てしかないとばかり「英検(漢検)2級突破!驚異の的中率100%!」などという問題集をイロイロ探しては買って来ていたのだ。頭が「的中率」で満杯だったのだろう。でも県警の捜査はヤマ当てじゃないんだから検挙率と言うべきだと思うんだけど………

ソチパラリンピックが開催され、ソチオリンピックほどではないものの、いろいろ報道されている。3月14日の朝7時45分ごろNHKがスキーの日本選手の金メダルを放映していた。起伏の激しいコースをすごいスピードで滑り降りるので、時には選手がしゃがみこむように見える場面もあった。
これに引きずられたのかも知れないが、女子アナが「見事な滑りでした」と言うべき所を「見事な座り(すわり)でした」と言った後、言い直したのだ。スキーの滑降で座っちゃってどうするんだ! 最近、全身の力が抜けるようなトチリが多すぎるような気がする。民放が如何にヨレヨレになろうが天下のNHKだけは踏ん張って欲しい。最後の砦なんだから!

料理に関して少しく自信をつけてきた家内ではあるが、やはり天性の不器用はそう簡単には直らない。先日もオハギを10個近く作ったのだが大きさがマチマチだ。息子が見て「この大きいやつはこっちの小さいヤツの3倍くらいあるよ」という。料理に自信を持ち始めた家内はすべてにわたって自信満々でこの程度の指摘ごときにびくともしない。「好きな大きさのを選べるようにしたのよ」

こんな家内が先日、あるサークルから臨時の料理人として招かれた。当日まである程度日数があり、昔買って殆ど未使用の料理本を一生懸命眺めていた。その日は全く緊張することなくイソイソと出かけて行った。帰宅した家内は無事大役を果たしたと見えかなり上機嫌だった。「何とかうまくやったんだな」と思いつつも、不安で不安でたまらなかった我々は「どうだった?」「何をつくった?」「皆喜んで食ってたか?」「トイレに駆け込んだやつはいなかったか?」などと矢継ぎ早に質問した。
あれを作った、これも作ったと饒舌に喋ったが、そのうち「卵焼きも作ったけどうまく出来たよ」というので「日本酒入れなかったろうな?」と聞かずにはいられなかった(日本図書刊行会発行「おもしろ会計 第39話 我が家の料理人」を参照すればこの質問の謎が解けるので是非お買い求め下さい)。そしてこの質問に対する答えでビックリ仰天してしまった。「テンツンドンの素使ったから美味く出来たよ」と言いながら携帯で撮った自作料理の写真を見せたのだ。天津丼にのっかってる卵の四角いヤツが写っていた。
確かに「天津丼」は「テンツンドン」と読めなくもないが………。なお家内の名誉のため一言付け加えるならば、彼女は「興味津々」をちゃんと「興味シンシン」と読んでいる。「興味ツンツン」と呼んでいるわけではない。
しかし考えてみれば一度も家内と二人で天津丼を食ったことがない。1度でも食べて(注文して)いればこんな間違いはしないのに。山国育ちだからエビやカニの殻の外し方なども知らない筈だ。1尾(1パイ)丸々出されたら困ってしまうだろう。キャビアとかフォアグラを出すようなレストランに連れて行ったこともない。ハワイへ連れて行くという約束もまだ果たしていない。

初めはゲタゲタ大笑いしていた私はとても申し訳ない気分になってしまった。ほんとにすまない。これまで散々、自分の女房を「おもしろ会計」の肴にしてしまった。私は本当にイケナイ罰当たりな人間だ。私は今回ばかりは心から反省し、本当に仏様のような心に生まれ変わった。大きいおカネが入ったらきっとハワイへ連れて行くからな。大金持ちの相続税申告ころがって来ないかな?
 


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