第64号「楽しい日本語(その5)」(2013年6月22日配信)

大ハズレの梅雨入り宣言でしたが、ようやく梅雨らしくなってきました。外は雨で、出かける気にもならず部屋の整理をしているとメモ帳が見つかりました。読んでみたらだいぶ昔に家族の楽しい日本語をその都度書きとめておいたもので、当時の状況が生き生きと蘇ってきました。今回はこの蓄えに最近のいくつかをプラスして第5回目の「楽しい日本語」といたします。

家には随分長生きの金魚がいます。息子が小学1年生のとき日テレの金魚すくいで手に入れたうちの1匹で、少なくとも9歳にはなっています。餌やりも金魚鉢の掃除も、いつの間にか私の役目になってしまいました。あるとき私が餌をやっていたら家内が、「毎日やることないよ、年寄りなんだから食べ過ぎになっちゃうよ」と言います。そばにいた怠け者の息子が「ママも年寄りだからご飯減らさなくちゃ」と混ぜ返しました。すると「ママは年寄りじゃないよ。これからヒトハダ咲かせるんだから」

 数年前になりますが、朝、出がけに息子が「靴下がないよ」とあせったようすです。家内が「ベランダに干してあるから『現地直送』で好きなの履いていきなさい」と気楽に言います。以前は『産地直送』と言っていました。『産地直送』のほうが適切な感じがします。それにしてもベランダに一晩干しっぱなしというのもすごい。

少し古い話ですが、神奈川県の大和市で、上空からジェット機の部品が落下して車を損傷したということがありました。幸いけが人はなかったのですが、このニュースを見た家内が「クルマでよかった、人に当たったら死んじゃうよね。 “ヒコー”中の幸いだったね」と言いました。余りに平凡で全く受けなかったのですが、本人は失望する風はまったくありませんでした。なぜならごく普通の日本語を話しただけであってでシャレのつもりは全くなかったからです。本人はマジメだったのです。

家庭に火災報知機の設置が義務付けられた頃の話ですが、上尾市の広報誌を見ていた家内が、火災報知器の設置のお願いの記事で火災報知器をもらえるものと勘違いし、応募のハガキを買ってきたのです。ハガキはいつでも使えるからいいとして、広報誌の記載が分かりにくいとか、火の元には十分気をつけているから報知器なんか要らないなどと家内は不満を述べるのですが、そのたびに火災ホーキチ、火災ホーキチと言い、いくら「ホーチキって言うんだ」と教えても間違いを訂正しません。大変うるさかったです。

他にも「沖縄の楽器の「サンシンをシャミセン」、「ブラザー(ブレザー)掛けといたよ」といった短い言葉がメモ帳には書きとめてありましたが、最近はこうした迷言はあまり聞かなくなりました。少し寂しいです。

 風呂から出た家内に「熱め、温め(ぬるめ)どっちだった?」と尋ねると、「ちょうどめだったよ」と云う答えでした。これはオカシイと感じましたが、それなら正しくは何と云うのか問われたら答えられません。「ちょうど良かったよ」とか「いい湯加減だったよ」と云うような表現になるのではないかと思います。ちょうど良い湯加減、と云う意味での「熱め」「ぬるめ」に相当する日本語はないのではないかと思います。

 最後は、天下のNHKの平成25年6月19日朝6時のニュースでのポカです。日本のある古文書がユネスコの「記憶遺産(と云うのがあるらしい)」に登録されるという内容だったのですが、アナウンサーが「ユネスコ」というべきところを「ユネスケ」とやったのです。私の眼前に浮かんだのはタレントのヨネスケのあの顔でした。まじめなNHKのアナウンサーの顔と、厳かな古文書と、強烈な個性だらけの色黒のヨネスケの顔が重なって消えませんでした。間違うにしてももっと別の間違いが出来ないものかと思いました。


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