第72回「経理で長生きを」(2012年2月11日)
細かい仕事をしているとボケる、ということを聞いたことがあります。確かに経理などは人に任せて、自分は世界中を飛び回って大きな商談をまとめるとか合併契約を結ぶとか次々と出店契約を締結する方がカッコよくて長生きしそうな気もします。
しかし、会社の命運を左右するような大きな商談や契約を年賀状のスタンプを押すように気楽にポンポン決める人はいないと思います。綿密な事前準備が必要ですし、少しでも自社に有利な条件をとおすために全精力を注いで交渉に臨むはずです。精神的にも肉体的にも限界を極める大仕事であり、ストレスも想像を絶するものがあるはずです。ボケてる暇はないかも知れませんが、長生きできそうもありません。
話を戻しますが、細かい仕事ばかりしていると本当にボケやすいのでしょうか。細かい仕事というのかどうか分かりませんが、人間国宝とか重要文化財とかに指定されている職人さんは総じて長生きの方が多いように思います。手先を使うことはボケ防止になるとも聞きますが、手先をよく使う一流の演奏家も確かに長生きの方が多いように思います。
経理の仕事を見てみますと、今はパソコンに会計ソフトを入れて、それを操作して日常の記帳業務や決算書類の作成をしています。少し前までは電卓、さらにその昔はソロバンを使用していましたから、少なくとも昔の経理マンは確かに手先をよく使いました。それでは昔の経理マンは長生きだったのでしょうか。
経理マンときけば、赤ら顔で髭が濃くて大酒のみといった昔の豪傑のようなタイプは想像できません。争いを好まず色白でメガネを掛けた真面目な人、といったタイプを通常はイメージするのではではないかと思います。こういうイメージからは長生きというより短命といった結論となりやすいと思います。こんなところから、1円でも大事にする経理マン=細かい仕事をする人は長生きしないとかボケやすいとか言われるようになったのではないかと思います。
確定申告の時期となり、全国の税務署や市役所等で無料の申告相談をしています。わたしも先日相談員として従事いたしました。その会場に脚が多少弱っていて杖を使用していましたがかなりの迫力の人(以下、「迫力人ハクリョクビト」といいます)が相談に現れたのです。年配の御夫婦が付き添われていて「父です。ちょうど百歳で、耳が少し遠いので私共が付きそいでまいりました」と言うのでびっくりしました。
この迫力人は、毎年損益計算書と貸借対照表を作っていて、百歳になった今年も決算の仕事は人に譲らず自分で作ってきたということでした。決算書の数字は大きく太いのですが、すべての文字が小刻みに美しく波打っていました。手許が多少震えていたので、この文字は紛れもなくこの迫力人が書いたものであることが確認できました。
計算チェック等をしましたが、計算ミスも転記ミスもなくきちんと作られていました。話してみると声も大きく、財布のヒモをしっかり握っていることが分かりました。この年になると引退して子の被扶養者となるのが普通ですが、事業主として娘さんに給料を払い、大局を捉えつつ事業を遂行し、同時に経理マンでもあるこの迫力人には本当に感銘を受けました。
細かい点だけにこだわってその点しか考えないような人生だと、一般に言われるようにボケやすいのかも知れません。しかし演奏家であれ工芸品等を作る職人さんであれ、長命で活躍する人は、確かに手先はよく使うのでしょうが、それだけではなく、同時に作品や仕事全体もとらえて常にその改良や進歩を考え、頭を働かせているのだと思います。そのようにバランスよく脳を使えばボケることもないのではないかと思います。
経理をしながら会社全体の事も考える、ということであれば百歳まで元気で生きられます。私も経理・税務を勉強しながら会社の経営という面でも精進して百歳まで生きたいと思います。長生きの秘訣を学んだような気がいたしました。
皆さんも経理を担当して長生きしませんか?