第81話 「楽しい日本語(7)」(2013年12月22日)

 今回は、「楽しい日本語」といっても「単語」ではなく「表現」と云うことで楽しんで下さい。
 前回の「楽しい日本語(6)」で、家内が作った料理を「得体の知れない茶色の液体」と表現したことが、家内にはかなり不満だったらしい。いつもは平気の平左なのに珍しいことだ。最近、料理に関してかなり自信を持ってきていたので、カチンときたようだ。私が「ハヤシシチュー云々」と書いたのをとりあげて「ハヤシといったらライス。シチューはビーフかカレーかクリームよ。ハヤシシチューなんてモノは日本にはございません。パパの料理音痴もばれちゃったし、読んだ人は笑ってるわよ」などと攻撃してくる。その後、最新の料理情報へと話題が移り「最近はオムレツにかけるのは、ケチャップじゃなくてドミグラスソースが普通よね」と来た。デミグラスだと思うんだけど……。
  話が前後するが、これより少し前に家内がマカロニグラタンを作り、これは夕食だから食べちゃダメだといってフライパンに入れっぱなしにしていた。夕食近い時刻に腹が減ったのでフライパンを覗いてみた。こげ茶色のひらひらしたものがアチコチに混ざっていた。例によってクリームか何かを焦がしちゃったのだ。家内に聞いたら「黒くなっちゃったのよ」と言う。これは「黒くなった」じゃなくて「焦がしちゃった」と言うんだよ、というとすこぶる機嫌が悪い。数ヶ月前から、料理に関しては譲れないという姿勢がうかがえる。
 
 その後、テレビでアメ横の様子を放映していたのを観て、家内が大分昔に上野の「吉池」で買い物をしていたときのことを話しだした。どこかのオッサンが奥さんらしいオバサンに、腹減っただの酒を飲みたいなどとと話していた。オバサンは「昼間っから飲もうなんて……」とか「そんなんろくなモンじゃない」などと言い、オッサンは「今日は俺の成人式で旗日(はたび)だからいいんだ」などと、その結末までは知らないが二人の会話が面白かったそうだ。そして「さすがはシャキシャキの江戸っ子ね。聞いてて気持が良かったわ」と言うのだが、それは「しゃきしゃき」じゃなく「チャキチャキ」だよと言っても特に反応がなく聞き流している。やっぱり家内がふくれるのは、料理に関する指摘だけのようだ。

 つい最近の日曜日の朝のことだが、息子が日曜ぐらいシッカリ眠るぞと言わんばかりになかなか起きてこない。家内がドアホンに向かって呼びかけた。ドアホンの子機を2階において息子を起こすのに利用しているのだ。「ドリヤができてるよ。早く来ないと冷めちゃうからね」と、普通に起こしにかかった。しばらく待ったが降りてくる気配が無い。ふたたびドアホンに向かって得意の大声で「ダーイ(=息子の名前)!早く来ないか、ドーリャーッ!」と叫び、その後少し小さい声で「こんな高度なシャレはあの子には分からないだろう」と自分の発したシャレ(?)にかなり満足の様子であった。本人が満足しているので私は何も言わなかった。シャレの感覚は従来どおりで変わらない。

 時節柄、クリスマスの話が出た。そしたら家内が突然、「私はいつも順番取りで、パパと大(=息子)だけいい思いしている」と積年の不満を口にし始めた。「こないだ(←10年も前の話だ)なんて、私が松坂屋で順番とって、後から来たパパと大だけがトナカイ撫でたり本物のサンタさん(←え?ほんもの?)と一緒に写真撮ったりしたじゃない」と言うのだ。
 トナカイと云ったって角がはえた普通の日本鹿とそんなに違わなかった。それに本物のサンタなんて事実を捻じ曲げないでくれよ。太った赤ら顔の西洋人のおっちゃんが赤い服を着ていただけだ。自分だって東京ドームに大と二人で行ったじゃないか、プラネタリウムにも行った(←最後まで眠っていたそうだけど)じゃないか、と云うと黙ってしまった。
 女性は、自分が得したことはすっかり忘れ、損したことだけをいつまでも覚えていて何十年もたってから突如として持ち出すから始末に悪い。これに対抗するには、こちらが損したことを手帳にシッカリ記録し、持ち運んで暗記し、いつでも取り出せるようにしておくに限る、ということに気がついた。とても大きな収穫だ。
 今年のおもしろ会計はこれでおしまいにして、また来年がんばりたいと思います。無理は禁物ですから。皆様、どうか良いお年をお迎え下さい。


前号 最新号 バックナンバー一覧  次号