第21号「神様と大仏様」(2012年8月24日配信)

何事によらず大まかなチェックと言うのは大事だと思います。誰かに教わったという記憶もなく、子供の頃からそういう癖がついていたような気がします。
例えば理科の試験で「30%の砂糖水50グラムと5%の砂糖水200グラムを混ぜたら濃度は何%になるか」といった問題で、計算結果が30%以上、あるいは5%以下ならば明らかに間違いですから再計算します。両者の中間の値で、30%よりも5%に近い結果であれば正解だろうとみなして先へ進みます。この大まかチェックはこれまでいろんな場面で随分役に立ちました。
読書のときもジャンルによっては大まかなチェックをしながら読みます。ごく最近、ある本を読んでいてこの大まかなチェックの結果「ここに書いてあることは間違っている」と直感しました。しかし良く考えると一理あるのかな?と思えてきて、次にやっぱりおかしいと感じ、現在はきちんと専門家に検証してもらえたらいいなと感じている事があります。

その昔TVで良い子達を夢中にさせたウルトラマンとかガメラといった巨大な怪獣(ロボット?)が、仮に地球上でTVどおりに暴れたら本当はどうなってしまうのでしょうか。このことについて科学的根拠に基づいて説明している楽しい文庫本があります。私はそういった話は好きなので何冊か読んでいたのですが、今回読んだのは、日本を産んだイザナギノミコト(男神)・イザナミノミコト(女神)の夫婦神様についての話でした。
古事記によればイザナミさんは全長1250kmある日本列島(本州)を産んでいるので、平均的日本女性の体格等から身長3950km、体重82京トンあったはずだ、とこの文庫本は推定しておりました。夫のイザナギさんも25歳男子の平均身長等から身長4250km、体重97京トンと推定しております。
列島の厚さ(深さ?高さ?)については特に触れていませんでしたが、日本列島とその他の島々をあの形のまま産むというのは随分乱暴な話だと思いました。ギザギザの日本列島をそのまま出産するのはえらく大変だったのではないでしょうか。下関近辺から産むか下北半島から産むか、いずれにしても能登半島または房総半島、紀伊半島あたりの出っ張りは大きなネックになったことでしょう。
そしてこの巨大な神様と富士山の高さや国際宇宙ステーション等を比較していて面白かったのですが、動き出したらどうなるかというところで私得意の大まかチェックが働きました。というのも、歩く早さは時速6400kmでマッハ5.2となるらしいのですが、身長から計算して1歩が日本列島(本州)と同じ1250kmですから1時間でたった5歩ちょっとしか動けないということになるのです。1歩進むのに12分!こんなことってあるでしょうか。
私はこれは絶対に計算違いをしている、と確信しました。しかし、電卓で計算しても間違いはありませんでした。人が巨大化したとき歩く早さは身長の平方根に比例するという前提によると、身長が2倍になれば動きは√2=1.4倍になるということで、身長に比例して速く動けるわけではないということです。確かにジャイアント馬場の緩慢な動きから推測して「一理あるかな」という気になりました。
でもやっぱりオカシイ。だって1歩進むのに12分かかるなんて………。近くで見たらマッハ5の超スピードで巨大な靴が動いているのかもしれませんが、遠くから見たら全く動いていないのと同じではありませんか。片足が地上に、片足が空中に、という不安定な格好で10分間以上ほとんど動かないなんて人間ワザではありません。神ワザです。
振り子の理屈は理屈で分かりますが、神様も人間も重力任せで生きているわけではありません。自分の筋力で手足を動かしているはずですから、いくら巨体だろうが1秒に1歩くらいは動けるのではないでしょうか。もう少しテキパキ動いて欲しいです。
私が中学生の頃「座高16メートルの奈良の大仏様が立ち上がって走り出したら新幹線もかなわない!」という記事を少年雑誌で読んだのを覚えています。一般の大人の100m走を20秒(=時速18km)、大仏様が立ち上がれば身長30mとして大人の17倍くらい、といった程度の前提で単純な比例計算をしたのだろうと思います(これだと大仏様が走ると時速306km)。理論的には稚拙でもこちらのほうがよほどシックリきます。
いくら大きくても1歩動くのに12分もかかるようなノロマではウルトラマンと戦ったら負けてしまいます。真に日本を愛する日本人として、最強の英雄はキビキビ動けるイザナギさんか大仏様であって欲しいと思います。


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