第61号「楽しい日本語(その4)」(2013年5月31日配信)

楽しい日本語が蓄積されてきたのでご披露いたします。約7ヶ月ぶりで4回目になります。前回の第60話で、息子が苦労の末漢検の2級を突破し、ようやく合格証書が届いたという話をしました。勉強しただけあって、あまり的外れな言葉を使わなくなりました。

漢検2級は、高卒・大学生レベルの漢字・諺を守備範囲としているそうですが、公益財団法人が実施している権威ある検定ですから、自ずと上品です。庶民が日常的に使っている言葉をすべて対象としているわけではありません。漢検で何級に合格したからといって、下品な言葉も分かっているということではありません。庶民語は周囲や親の会話、読書や漫画等から学んでいくことだと思います。

先日、うそつき息子の下手なゴマカシについて、家内と二人で「ケツが割れてるのも知らないんだから…」などと話していました。いつの間にか息子がそばに来ていて話を聞いていたとみえ、「ケツは誰でも割れてると思うけど。割れてないケツってどんなケツ?そんな人いないんじゃないの」と、まじめな顔で言うではありませんか。思わずふき出してしまいました。とても高校生の息子と親の会話とは思えませんでした。

大分前ですが、息子が本を読んでいて「シリの毛まで抜かれる」と云う言葉に遭遇し、意味が分からず辞書を引いたのですが載ってなくて私に尋ねてきたことがありました。このときは私の的確な説明で十分に納得し「そんな間抜けな人がいたら顔を見てみたいよね」などと感想を述べ、大人の言葉を理解できて満足げでした。我が家のように超上品な家庭ではこうした下品な言葉を学ぶ機会が全くないので、息子をたくましく育てたいと思っている私としてはどうしたものか、頭を悩ませている所です。

それから割れケツ事件の後ですから漢検2級合格後の話で、とても信じられない誤読が発生しました。大分前、直木賞をウエキショウと呼んでいた話しをしましたが、今度は芥川だれそれをチャガワだれそれと読んだのです。単なる目の錯覚だと信じたいのですが………

その一方で家内も負けてはいません。パソコンに何か入力していた家内が「これヒズでいいの?」ときくのです。家内は英文の暗記用に、英和対照させた資料を息子に作ってやったりしていたのでてっきり「his」だと思いました。でも「his」が読めないはずはないよな、と不思議に思って見てみると「非ず」でした。息子に頼まれて漢文の書き下し分を入力していたのでした。

いまひとつ成績が伸びない息子を支援すべく、得意でもない漢文をせっせと入力している家内には頭が下がります。でも「あんたも英語と数学と漢文と古文と世界史と日本史と地理以外はちゃんと出来るんだから、もう少し自信持ってやりなさいよ」というのはどうでしょうか。その〇〇以外のちゃんと出来る科目って一体何なの?何が残っているの?と訊きたくなりましたが止めました。ハッパの掛けたつもりでしょうが励まし効果があるのでしょうか。

家内の口からは興奮すると機関銃のように言葉が飛び出していましたが、最近は歳のせいか舌がもつれたり言葉が出てこなかったりします。家内は電化製品を使用した後、必ずコンセントからプラグを抜くのですが、それを家族にも強要します。私も息子も面倒なので抜かないことが多いのですが、先日もそのことで興奮して「差しっぱなしなんてぜっちゃいやっちゃい、あわわわ……」ともつれてしまって大笑いでした。これは「絶対やっちゃいけないのよ」と言うつもりだったのです。相変わらず楽しい日本語で何とかもっている我が家です。


前号 最新号 バックナンバー一覧 次号