第93号「傲慢になった日本人」(2019年4月3日配信)

私の兄が小学生のときスズメを拾ってきた。とてもかわいいので飼おうとしたが翌朝には死んでしまった。母が「死んじゃったものはしょうがない。焼いてやるから食べろ」と言って焼いてくれた。兄はそれを本当に食ってしまった。兄が半分食えといってくれたが、かわいそうでとても食えなかった。

私が高校生の時に、体育の教師が、戦争直後の食糧難時代に肉を食いたくて我慢できず犬を殺して食った、という話をした。また別の教師は、マムシを食ったがマムシは脂が強くて食うと口の中がねばってしまうという話をした。犬を食った教師に対しては、痩せていたに違いない犬を殺したのか、そんなに肉が食いたかったかという反感と、他に食うものが全くなくて仕方がなかったのだろうという気持ちが並存していたのを覚えている。

昔は農家でなくとも鶏を飼っている家は結構あって、明け方や時には真昼間に鳴き声がよく聞こえて来たものだ。そういう家庭では自宅で締めて食べるということはあったと思われる。しかし、基本的に動物に対する慈しみの気持、食べ物に対する感謝の気持は持っており、食物を無駄にするということは殆どなかったのではないかと思っている。

それに引き換え、最近の飽食振りはどうだ。すし食べ放題バスツァーなどはまだいいとしても、テレビで放映される大食い番組は醜いとしか言いようがない。バスツァー参加者はそんなにバカ食いする人はいないと思うが、大食い大会の出場者はどうだ。美味しいと感じるレベルはとうに超えて、苦痛を感じながら食べているに違いない。そうだとすると、大食い番組のために殺される家畜や魚はかわいそうだ。無益な殺生以外の何物でもない。作る料理人も空しいのではないか。

不況と云われて久しいが、食べ物の粗末な扱いには怒りがわいてくる。日本人の、ものを大切にするという美徳はどこへいってしまったのだろう。他の生物の命を糧として生きているということに対する感謝の念などみじんも感じられない。こういう精神だから政府のバラマキも無駄遣いと感じないのだろう。無料申告相談を担当すると、掛け金の何倍もの年金をもらいながら感謝もしない、税の申告は無料が当たり前、税金を払ってやっているという意識の年寄りが多い。このままでは近い将来必ず大きなしっぺ返しが来るはずだ。こんな国民では政府のバラマキを厳しく監視することもストップさせることも出来ないだろう。我が国の財政は必ず行き詰る。
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