第20号「自分では気付かない」(2012年8月17日配信)

 最近、息子が軟弱に感じられてなりませんでした。風呂に入れば熱いといって水でウメようとするし、勉強させようとすれば朝からエアコンを入れたがるし、とにかく我慢ができないのです。
そのたびに「風呂が熱いのは最初だけだ。体が慣れてくればちょうど良くなる」とか「俺達が若い頃は、冬は寒くて指がかじかんで鉛筆が持てなかった」とか「夏はパンツ一つでも暑くてたまらず、腕の汗で教科書やらノートが濡れるから腕に手ぬぐいを巻いて勉強したものだ」などと説教するのですが、いまひとつ効き目がありませんでした。
私が子供の頃は、花粉症の子もいなかったし、熱中症で倒れるお年寄りもいなかったように記憶しています。海外ではエアコンなどないところもあるだろうに、ウチの息子みたいな子供が大人になって海外へ出かけて生きていけるのか、酷暑の中近東で商売できるのか等々大いに不安を感じておりました。

 ところがそのうち「加齢で暑さ(熱さ)に対する感度が落ち、そのためにまだ暑くないと油断し、適切な行動を取らずに熱中症等で命を落とすケースがある」らしいと息子たちが言い出したのです。確かにお年寄りが熱中症でなくなったという報道は最近よく聞きます。私も暑さ(熱さ)を感じにくくなってきたのでしょうか。
 それまでは、息子が寒暖計で風呂の温度を測って「ウメようよ。44も度あるよ」と言っても、私は「寒暖計が狂っている。百円ショップの寒暖計なんか信用できるもんか。俺の五感のほうが確かだ」と、はねつけておりました(きちんとした寒暖計を買って確認しようかな?)。

私が知っているある織場では、クールビズが許されるのは真夏の8月だけで、7月および9月は上着・ネクタイ着用でした。理由はトップがそういう指示を出していたからです。ここのトップがなぜクールビズ期間を短縮したのかといえば、彼は某政党の幹事長そっくりの枯れ木のようなお年寄りで暑さを感じなくなっていたためと思われます。しかも本人はそのことを意識していなかったのでしょう。
普通の体ならクールビズでも暑くてたまらないのに、従業員はきっちりネクタイ締めてスーツを着込んで仕事に励んでいたのです。周りから見ればきわめて異常な光景でした。彼らは「暑苦しい格好で大汗かいて俺たち周りの人たちにとっても迷惑だよな、取引先にもあてつけましいって思われるよ」などと話し合っておりました。

組織のトップが熱さ(暑さ)を感じなくなった、というだけなら職員の能率がおちる程度ですからたいした弊害ではないかも知れません。ところが、若い頃は斬新なアイディアや柔軟な発想で大いに会社の繁栄に貢献した切れ者が、出世したらすっかり保守的になってしまったという話をきくことがあります。
これに関しては、確かにやむをえない面もあると思います。営業課長なら売上だけ考えていても問題ないでしょうが、社長は会社全体に責任を負っていますから営業課長と同じ考えでは困ります。出世したらコロッと変わるというのは一概に否定もできないと思います。
しかしこれが職責を認識しての変化ではなく、脳みその老化に起因するのであれば、オオゴトです。クールビズなんかいらない!と強硬に主張するようになったら要注意かもしれません。ちなみに私は、本当は風呂を熱いと感じているし、エアコンも使いたいし、クールビズ大賛成です。ただ息子が贅沢になっているな、と感じているだけですから全然心配いりません。


前号 最新号 バックナンバー一覧 次号