第11号「IFRSはどうなる?」(2012年6月16日配信)

IFRSはどうなる?(その1)
一般的には面白くないテーマかも知れませんが、数回に分けて今話題のIFRS(イファース= International Financial Reporting Standards=国際財務報告基準)に対する私見を述べたいと思います。

多くの人は、うちは大会社じゃないからそんなの関係ないよ、と考えているかも知れませんが、そうとばかりは言い切れません。IFRSの適用会社は、海外展開を進めている上場会社に限定するなどといわれていますが、対象となる財務諸表は適用会社が作る財務諸表のうち、個別財務諸表(親会社だけの財務諸表)ではなく連結財務諸表(企業グループ全体の財務諸表)だからです。

仮に強制適用となれば、原則として適用会社のグループ企業すべてが連結決算の範囲に入るのです。子会社はすべてIFRSに準拠した会計データの提出を親会社から求められることになります。現在単独で堅実に事業遂行している会社であっても先の見えない経営環境下ですから、将来を考えて「大会社の傘下に入る」という選択をしないとも限りません。世界的な優れた技術やノウハウをもった企業は、大企業から強く求められてそのグループに入らざるを得なくなるかも知れません。小さいからIFRSとは無縁だというわけではないのです。

数年前までIFRSの異常なブームでした。大規模書店に立ち寄れば、経済・ビジネス関係の売り場はIFRSの解説本であふれかえっていました。IFRSを世界の大企業に共通の会計基準として採用させるようにしようという動きが進められていたのです。これが実現すれば、企業の成績表である財務諸表を国籍を問わず比較できるようになり、資金を調達する企業にとっても世界的規模で投資先を求めている投資家にとっても有益である、というのがIFRS推進の大きな理由のひとつでした。

まずEUで採用され、カナダやオーストラリアでも、またインドや中国や東南アジアでも採用され、いまや世界の主要国でIFRSを採用していないのは日本と米国だけ。これに乗り遅れれば、海外進出している日本企業が現地で資金調達することもできなくなり、世界から相手にされなくなってしまう、とIFRS推進団体は強調していました。

しかしながらその当時、東南アジアあたりで仕事をして帰国した人に話を聞くと、IFRSを採用している、あるいは採用を決めた国のはずなのに書店でIFRSの本なんか見かけたことはない、ということでした。果たして本当にIFRSは世界中に普及しているのか、普及推進団体の話だけなのか、実態を知りたいものだと思っていました。

しかしそんな理由だけで海外へ行くほどの暇もカネもありませんから実態の確認は行っておりません。実態不明のままの判断ですが、個人的にはIFRSの全面採用ではなく、日本基準の調整で十分ではないかと思います。たとえば企業の退職金・年金債務の引当に関して以前の日本基準は確かに不十分だったと思います。しかしそういった欠陥は個々に修正されているし、新たな欠陥が発見されればその都度修正していけば日本基準でなんら問題はないはずです。

IFRSの全面採用ということにいまひとつ賛同できない次の理由として、IFRSは現在もまだ手直し中とのことですが、将来の要素、予測、評価を取り込みすぎているという感じがしてなりません。将来のことは投資をする基金なりファンドなりが自分のリスクで判断すべきことだと思うのです。

いかにもっともらしい計算を駆使して「割引現在価値」など算出したところで、予測は予測でしかありません。到底不可能なことをしようとしていて、しかもそんなことは投資家も望んでいないのではないか、と思われてなりません。財務諸表を監査する会計士は予言者ではありません。予言者でもない会計士が将来予測について意見を述べて、果たして責任を取れるのでしょうか。将来、予測ハズレが続出したときに、「当時の主なデータはすべて検討し、協議した。議事録も残っている」ということで、検討資料さえそろえておけば免責されるのでしょうか。


前号 最新号 バックナンバー一覧 次号