第75回「確定申告あれこれ」(2012年3月10日)

 所得税の確定申告が終わってやれやれです。が一つ疑問が湧きました。今年から実施された年金生活者の申告不要制度です。「年金400万以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下の人は所得税の申告は不要」ということになりましたが、このことは多少の混乱をもたらしました。

 収入が年金だけの人でも医療費控除や生命保険料控除等をしたければ、申告しなければなりません。控除の意思がなくともこれまでの習慣で申告に来る人もいます(これまでは「ちゃんと申告して下さい」と勧めていましたから)。ところが申告することによって逆に課税されたり税額が増えるケースが出てしまうのです。
 また、所得税に関しては申告不要となるものの、住民税の申告は別途必要なのです。もともと所得税の申告をすれば住民税の申告は不要なのですから、従来と比較しても納税者の手間は変わらず、申告手続きが簡素化されたというわけでもありません。

 年金を2か所以上から受けているケースでは、年金支払者は受給者が他にどんな年金をいくら受けているか分からないので、自分が支払っている年金のみに基づいて所得税額を算定し源泉徴収せざるを得ません。ですから徴収額は低めになることが多いと思います。申告したために全部の年金が合算のうえ計算されるので税額が増加してしまうことがあるということです。

 このことは実は驚くべきことなのです。医療費控除や生命保険料控除をするつもりがないのであれば、殆どの場合、申告しないでじっとしていた方が得ということなのです。申告不要とのお墨付きがあるわけですから、申告しなくとも脱税でも何でもありません。何の問題も生じないのです。それじゃ国は損をするじゃないか、そんなバカな話があるわけがないと思うかも知れません。この疑問に対する答えはおそらく以下のとおりです。

 年間400万円以下と云えばほとんどの年金生活者が該当するのではないかと思います。ほとんどの年金生活者が確定申告に来なくなる(不要になる)のであれば、1か月以上にわたって場所と人員をそろえて無料申告相談等を実施する必要がなくなります。徴税コストの削減ができ、国にとってもメリットがあるということだと思います。

 しかしながらこの制度ではコスト削減というメリットと引き換えに、大事なものを失ってしまうような気がします。正直に申告すれば増税となるが、申告しなくても問題ないということでは正直者がバカを見ます。健全な納税意識が壊れてしまうような気がします。徴税コストは無視できないし、多少の益税はやむを得ない、2~3年たてば皆が申告不要制度に慣れてきて申告に来る人もなくなり、不公平の問題は自然に解決するということかも知れませんが……。


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