第74回「年金が心配」(2012年3月2日)

 年金がこのままでは立ち行かないだろうとの意見はあちこちで聞きますが、今年の確定申告無料相談で年金生活者の相談を多く受け、いろいろ考えさせられました。

 まず、東日本大震災の被災者への義捐金とか寄付金をした高齢者(年金生活者=)がとても少なかったことです。「本当に余裕がないのかなぁ。こんなに年金支給されてるのに…」と感じることが度々ありました。「病気入院等の将来の不安はあるかもしれないが、病気になれば健康保険や市町村の補助もあるし(市町村により後期高齢者は医療費は1割負担のところもある)、5千円や1万円の寄付をしても暮らしていけるのではないか」と思いました。私の両親の世代の方がはるかに貧乏でしたが助け合いの精神はあったと思います。
 殆どの相談者の年金額がそう大きく違わないということが分かったので、試みに計算してみました。「日本国勢図会」によれば、日本の65歳以上の人口は2010年10月1日現在で約2960万人です。高齢者世帯のほとんどが二人家族なので世帯数はその半分の1500万世帯位と思われます。申告相談での体験によれば、年金基金を除いた世帯当たりの公的年金は、平均で年間250万円を少し超える程度かなという印象でした。夫が200万円、妻が50~60万円といった内訳です。

 そうすると日本全体の年金支給額は、年間250万円×1500万(世帯)=37.5兆円となります。単身(寡婦)世帯も多いことを考慮すると世帯数はもっと多いかも知れませんが、単身世帯の年金額は夫婦二人世帯より少なくなるので、総額への大きな影響はないと思います。しかし60歳~65歳で年金を受給している人等も含めると我が国の年金総額は50兆円位に跳ね上がるかも知れません。これでは財政がおかしくなるのも無理はないと思いました。

 ところが、国の年金負担額を正確に知りたくなり調べてみたところ、一般会計は年金と医療保険が一緒に分類されていてよく分かりませんでしたが、年金特別会計は私の予測に反して80兆円近い規模であることが分かったのです。職員の人件費やシステム維持費等はそんなに多くない筈なので、年金に関する政府の負担額は私の推測をはるかに超えて大きいことになります。ということは、無料申告相談に来た人は年金の少ない人ばかりで、もっと多額の年金を支給されている人が他に大勢いるということなのでしょうか。
 何兆円、何十兆円という金額を統計資料で眺めても実感がわきませんが、40兆円あれば我が国の65歳以上の世帯全部に年間250万円ずつ支給できるということになると、年金特別会計の80兆円(さらに一般会計の年金・医療介護保険給付費20兆円の一部も加算すれば年金総額はさらに大きくなる?)という金額が如何に大きなものかが分かります。その仕組みや使途先に興味が湧いてきました。高齢者になるほど自分が払い込んだ額の何倍もの年金を受給していることは新聞等でも報じられて多くの人の知るところですが、実態を調べてみたいと思いました。

 ところが中には、国からの破格の支援に対してさほど感謝せず不満たらたらの高齢者が一部にいることは事実です。ある高齢者の場合、住民税を納税者自ら納付する方式から年金支給時に天引きする方式に変更となったのです。彼は年金を減らされたと感じたのか、年金所得から住民税を控除してそれに税率を掛け所得税を算出すべきだ、と主張するのです。
 受け取った年金から払うのか、受け取る前に払うのかの違いだけであること、所得税額も住民税額も従来と差異はないこと等いくら説明しても理解する能力がないのです。果ては法律を変えるべきだなどと言い出す始末です。もちろん彼は東日本大震災の被災者へ寄付をしておりません。こういったこととは無関係に、現在および将来の財政赤字から判断して高額年金の見直しは必須であると強く強く感じた次第です。


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