第65回「小遣い帳と現金出納帳」(2011年12月16日)

 前回は、小遣い帳をつける場合、親に厳しくチェックされることが分かっていれば叱られないように嘘を記載するので無駄遣い防止の効果がないのではないか、しかし記録としての利用価値は高いというような話を致しました。

 ここで嘘の記載を防止するにはどうしたらいいか。子供の買い物ですからすべて現金取引です。昔はレシートを出す店は大きな店のみで、子供が行くような小規模な小売店にはレジスターなどなく、レシートもなければ領収書などなおさらありません。現金と商品とを交換してそれでおしまいでした。子供が何を買ったかは、現場を見ていないと分りません。

 現在ではほとんどの店でレシートを出すので、それを必ず小遣い帳に貼りつけるようにさせれば嘘の記載は困難となります。それでも無駄遣いをしたとか、悪ガキに脅し取られたとか、悪友と賭け事をして巻き上げられたなどと言う場合「赤い羽根募金に入れた」「おカネ落しちゃった」などのごまかしが可能なので、なかなかレシートさえ出させれば大丈夫ということでもありません。
 しかしこのような制約はあるものの、子供をその交友関係や学校生活環境まで含めて常日頃よく見ていれば100%とは言いませんが、隠し事をしているときの僅かな態度の変化等に気づくものです。小遣い帳は決して無意味というわけではないと思います。

 ところが世間では、子供の小遣い帳をチェックするどころか小遣い帳をつけさせることさえしない親が結構多いのではないでしょうか。子供を信頼することが大事だ、小遣いの使途もその反省も本人の自覚に任せて子供の自立を促すべきだ、などという主張が根拠になっていると思います。
 しかし成長途上の子供に対しては、やはり親がしっかり監視すべきだと私は思います。野放しにしておいて、後で子供が「僕が貰った小遣いを何に使おうが僕の自由だ。自分のカネでオートバイ買って何が悪い」などと言い出してから慌てても遅いのです。親の無関心は決して子のためにならないと思います。この点に関しては意見が分かれると思いますが、会社の業務と比較すると案外簡単にみえてきます。

 会社の経理には現金を担当する職務があります。経理や総務と云った管理部門は人数も削減されやすく、大きい会社以外は現金の取扱いも記帳も普通は同一人が担当します。一人の担当者が業務終了後に出納帳をシメて、その記録と現金の有高とを毎日照合し、上司の決裁を受けるのが普通です。ここで太っ腹の上司が「君を信頼しているから、毎日毎日現金と出納帳を僕の処まで持ってこなくていいよ。全部任せるよ。」といったら、現金担当者は喜ぶでしょうか。
 彼が不正をしている、あるいは不正を目論んでいるのであれば大いに喜ぶでしょう。しかし、毎日きちんと入出金を処理し、出納帳をつけている誠実な担当者ならば喜ばないと思います。逆にこの上司の態度は、「俺の仕事は会社にとって大して重要ではないのか?」と担当者を誤解させてしまう恐れがあります。担当者は、自分の職務を真面目にやればやるほどそれを上司に見てもらいたいと思うものです。たまには褒めて欲しいと思っているかも知れません。
 
 チェックが無いと次のような問題も生じます。会社に現金が不足して銀行まで引き出しに行く時間がない時、担当者が自分個人のカネを立替えて支払ったとします。当然、担当者は、そのおカネを後日回収するでしょう。このことは特に問題ではないと考えるかも知れませんが、実は非常にまずいことなのです。
 なぜならこういうことが許されていると、「会社に金がないときは俺のカネを何度も会社に貸している」という意識から「財布忘れちゃった。今日だけ会社のカネを借りちゃおう」などと云う甘えが生じるようになり、会社のカネの借用に抵抗感がなくなります。これが度重なってくるとやがて大きな不正につながりかねないのです。
 
 会社の業務においては、帳簿をきちんとつけていさえすれば財産管理ができ、問題は生じないというものではありません。善悪や道理の弁識能力が固まっていない子供であればなおさら誰かのチェックが必要でしょう。小遣い帳をつけさせるだけで子供が自立的にすくすく育つということではなく、チェックしたり他の手法で補充することが必要であると思います。意外にも会社の業務運営が子供のしつけ・教育に応用できるということを感じています。


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