第62回「ハクキン(白金)カイロ」(2011年11月26日)

 2,3か月前に四十肩で通院し始めたのですが、それから少したって部屋の模様替えをしました。肩が痛いので手首だけで重い物を持ち上げたせいか「テニス肘」という病気になってしまいました。こちらもまとめて診てもらっています。「テニス肘」なんて何やらお金持ちになったような気分でしたが、これがなかなか治りません。

 治療としては肩と肘に赤外線を8分間照射し、整体師に15分位マッサージしてもらい、肘にレーザー光を1分間照射するというものです。あとはウォーターベッドに仰向けに寝ると激しい泡?がぶつかってきて、腰を中心に体の背面全部がほぐれるのです。これを週1~2回通院してやってもらうのですが、腰はほとんど治ったのに肩と肘はなかなかよくならないのです。電車での通院が億劫になってきました。

 そこで、赤外線で温める治療はホッカイロでも代替出来るし、肩のマッサージも自分で出来るし、レーザーは効果があるか否か分からないが冷湿布で代替できそうだし、ウォーターベッドはもういらないがハンディタイプのマッサージ機があるから必要ならこれで代替しよう、と考えました。自宅療法に切り替えることにしました。

 使い捨てホッカイロも便利ですが、昔買った未使用のハクキン(白金)カイロが2個あったのでそれを使うことにしました。個人的には「ハッキンカイロ」と発音したいのですが商品が入った箱に明確に「ハクキンカイロ」と書いてあるのでやむを得ません。なぜ白金カイロが2個もあったのかというと、安売りの時に2個衝動買いしてしまったからです。 昔のカイロは貼付できなかったので、ズボンの腰の部分に挟んで、上からベルトで締めて使用していたのですが、これだとトイレでうっかり落してしまうのです。一応注意はしているのですが、慌てて駆け込んだ時などカイロが挟まっていることを忘れてしまうのです。私は、決して安くはない(白金!を使用していますから)カイロをそれまでに2個も落していたのです。

 引っ越すのが面倒で結婚するまで住んでいた安アパートのトイレは、くみ取り式ですから落としたら最後です。もちろん長い棒か何かを使えば物理的には拾えますが、それを洗っても使う気には到底なりません。そもそも洗う気になりません。諦めるしかないのです。

 そういう事態に備えて思い切って2個購入したのです。その後、古いストッキングに入れて腰に巻けばいいということを知りました。ストッキングをスーパーで購入し、いざ使用する段になって、パンティストッキングだったことに気が付きました。商品をほとんど見ずにカゴに放り込んで買ってしまったのですが後で恥ずかしくなりました。店員はきっと変態と思ったに違いありません。必要なストッキング部分だけ残して、いらないパンティ部分は切って捨てました。ストッキング部分にハッキンカイロを入れて腰に巻くようにしたのでトイレで落とすことはなくなりました。

 さらにその後は、貼付できるホッカイロが普及してきてそれを使うようになり、呼びに買った2個のハッキンカイロは未使用のまま残ったというわけです。新品同様にピカピカでした。燃料のベンジンやマッチも細々ですが現在も販売されていて、準備万端整いました。ところが困ったことに、これを右肩の前面(以下、患部)に密着させるのが結構難しいことが分かりました。

 ハッキンカイロはアイフォーンをもう少し小型にした薄型の金属容器で、表面はメッキされてツルツルですが、布の袋に入れるので摩擦力があります。これを患部にあてがってキツメの肌着を着て押さえつければ固定すると予測したのですが、患部にあてがっただけではカイロはたやすくずり落ちてしまいます。

 いろいろ考えた末、強力な両面テープで肌着の患部に当たると思われるあたりにカイロ袋を貼りつけました。新しい肌着ではもったいないと思い、かなり古いビロンビロンに伸びた肌着を使用しました。しかし、正しい位置に張り付けたハズなのにシャツ自体が伸びるので、寝て起きるとカイロが患部からずれて上腕部の後ろ側に回り込んでしまいました。こんな処を暖めても意味はありません。

 剥(は)がして貼り直そうとしましたが、両面テープの接着力が強力で古いカイロ袋が破けそうになり剥がせません。いろいろ考えた結果、肌着の内側が外側になるようにひっくり返せば前後(=腹と背)が逆になるのではないかと予想しました。やってみたら前後は逆にならず、左右が逆になってしまいました。カイロが左肩の後ろ側に来てしまいます。

 そこでさらに考えた結果、妙案が浮かびました。裏返しにした肌着を、さらに前後が逆に(腹の部分が背中に)なるように着ればカイロが右肩前部に来ることを突き止めました。背と腹を代えたので喉元が少し窮屈ですが、おかげさまで肩はいい具合に温まり快調です。「背に腹は代えられない」とよく言いますがそんなのウソであることが証明されました。

 改めて思ったのは、今回の難問は、子供の頃よくやった立体図形を包丁で斜めに切ったり、折りたたんだ紙にいろいろな切れ目を入れたりしたときどんな展開図が出来るかといった問題に似ていた、ということです。一度に全部考えるのではなく、表裏、左右、前後と一つずつ順番に考えたことにより解決できました。でも、試着したほうがはるかに簡単だったことに最後に気付きました。

 会計でも、設備を貸与して製造を委託し、完成品の半分を受託者に売ってもらい、売れ残りは1年後に委託者が引き取る、などというややこしい取引が稀にあります。製造単価や売上原価ををどう計算するか迷うことがあります。これも一気に片付けようとせず、要素ごとに分割して一つずつ丁寧に仕訳し、最後に合算すればわかるものです。

 それからもう一つ分かったことは、医者は近くがいいということです。


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