第57話 現代版「舌切り雀」

 舌切り雀という昔話があります。優しいお爺さんに助けられたスズメが、お婆さんが作った障子貼替え用のノリを食べてしまいました。腹を立てたお婆さんがスズメの舌を切ってしまい、スズメは山に逃げてしまいました。お爺さんが心配して山へ行くとスズメは歓待してくれ、大きいツヅラと小さいツヅラをお土産に差し出しました。お爺さんは小さいツヅラをもらい、帰って開けてみると金銀財宝がザックザク。次の日、この欲張りお婆さんが出かけて大きいツヅラを持ち帰り開けてみると蛇や虫やお化けが出てきてお化けに食べられてしまったというお話です。

 これは確かに素晴らしい昔話ですが、現代の子供は、障子張替え用のノリも知らないし、これを食べるということもピンとこないでしょう。またツヅラというものも想像できないでしょう。スズメも最近は見かけません。スズメの舌を切るというのも残酷で、昔話としてはどうなのかなと思っておりました。

 話しは変わりますが、会計士はだいぶ前から専門知識・能力の維持・更新の為に一定の研修を受けることが義務付けられています。税理士に対しても同様の研修の受講が推奨されており、近いうちに義務化されると聞いています。
教員免許についてはどうなのでしょうか。教員免許を10年ごとの更新制にして研修を義務付けるとか一時騒がれましたが、政権が代わってからゴタゴタしていたようですが結局どうなったのでしょうか。教員免許と言えば教育実習ですが、教育実習では思い出があります。

 大学4年時に、教職も好きだからという軽い気持ちで教員免許を取得しようと決めました。教員免許取得には教育実習が必須ですから、私も教育実習を申し込みました。教育実習の実施校については、出身校にお願いする等各自で探すように言われましたが、結局教務にすべてやっていただき、中学校で実習を受けました。

 実習初日は、指導教諭が「今日は初日だし、まぁ私どもの授業を見学してください。」ということだったので気楽に見学していました。ところが指導教諭の授業中に突然電話が入り退室したので、急きょ私が授業を引き継ぐことになりました。大して準備もしていなかったので冷や汗ものの授業でした。暑かったせいもあり、手拭いで汗を拭き拭きしながら授業を進め、やっと終業のベルで控室に戻りました。手拭いはウッカリ教卓に置き忘れてしまいました。貰い物の手拭いには「東北大学 大運動会」と染め抜いてありました。ハンカチではなく手拭いを使っていることに加えて、この変な文字が子供たちには面白かったらしく、以後実習終了まで私は「手拭いの先生」とよばれることになりました。

 給食も子供たちと一緒に食べました。自分のお盆を持って、給食当番の生徒の前に並び、スープやおかず等をよそってもらうのです。実習開始2~3日目のデザートは桃で、いつもどおりお盆を持って並びながら沢山の桃の入ったケースをぼんやり見ていたら形が少しゆがんだ、色の良くない桃(以下、青桃という)がありました。
 
 並んでいる生徒の数と桃の数から、その青桃は一人違いで私の後ろの生徒に配られることを割出しました。私は安心して順番を待ったのです。ところが、です。私の順番になったら給食当番の女子生徒は、私に来るはずの色も大きさも申し分ないやつ(以下、大桃という)を飛び越して、隣の青桃を何の躊躇もなく私のお盆に乗せたのです。大桃は、後ろに並んでいた男子生徒に配られてしまいました。

 「先生は決して大きい桃が欲しくて云うんじゃないんだけどね、先生のお盆には大きい桃を載せなくちゃいけないでしょ?」と喉まで出かかったのですが、そこはグッと飲み込みました。 昔の子供ならこのようなことは絶対にしなかったと思います。私だったら全部の桃の中から一番大きいのを選んで先生に差し出した筈です。すでに30年前から子供の躾が崩壊し始めていたのです。

 しかしながら冒頭で述べたように、当初は素晴らしかった昔話の「舌切り雀」も時代に合わなくなっています。そこでこの大桃・青桃事件を少しアレンジして現代の子供に通用する昔話(現代話?)を作りたいと思っています。あと20年ぐらいして引退したら取りかかろうと予定しています。


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