第54話 個人情報とプライバシー

 たまに昔の有価証券報告書をみるとずいぶん薄いのに驚きます。というよりも最近の有報はなぜこんなに分厚いのだろうと思います。「注記」の形で断片的な情報が大量に開示されています。企業の経営・決算等に不祥事があるたびに、事後的にあれも開示、これもと開示という方向に流れてしまうのでこういう結果となってきていると思います。セグメント(場所別、事業内容別等のくくり)別情報というものも開示されていますが、場合によっては取引先別の原価率(儲けの程度)が相手先に分かってしまうケースもあり、企業は対応に苦慮しており、経営に支障が出かねません。役員の個人別報酬まで開示されるのにも驚きます。

 昔は、日常生活において個人情報とかプライバシーといった考えがなく、高校生時代頃まで住所や電話番号の他に親の職業も提出させられました。それが名簿として一覧表になって配布されていたものです。いろんな職業があり、多少ごまかして書く親もいました。豆腐屋を製造業、ペンキ職人は「広告美術商」、サンドイッチマンは「自由労務」などとぼかすケースは結構ありました。新聞配達はなぜか「新聞記者」に化けていました。職種ではなく屋号を書いて提出した賢い親もいました。
確かに、少しでも見栄えのする職業に見せたいという心理も分かります。人によっては職業を明らかにしたくない人もいたでしょう。しかし、高度成長期頃までは、人々の権利意識も今ほど強くなく、イヤだなと思いつつも学校から要求されたら職業やら電話番号やらを提出していたのだと思います。

 ただ、最近は状況も変わってきてプライバシーの保護が考慮されるようになってきています。例えばだいぶ前から会計士名簿は、総会屋への利益供与についての対処等から非開示の必要性が認められ、希望すれば住所や電話番号を非表示とすることが出来るようになっていますが、いい方法だと思います。しかしごく最近となると個人情報保護法の誤解もあり、プライバシーだ、個人情報だということで神経質になりすぎているように思います。学校でも名簿は作らず、連絡簿は電話番号だけ。住所も分かりません。非常に不便です。

 その一方で、お金の振り込みに関しては、やけにズカズカ個人情報に入りこんでくるようで、外圧に押されるままに、知恵を働かせることもなく画一的な規則を作ったとしか思えません。例えば送金額が10万円を超えると、割安なATMでの振込みは出来ません。2回以上に分けなければならず、2回に分ければ2回分の手数料がかかります。1回で済ますにはATMではなく窓口で高い手数料を払って文書扱いにせざるを得ません。

 税理士登録のため税理士会への入会金の郵便振込みを家内に依頼したのですが、本人でなければ出来ないということで、引き返してきました。後日私が出向いたのですが、税理士会への振込みをなぜ本人に限定しなければいけないのでしょうか。税理士会を名乗った違法団体が口座を開設している可能性があるというのでしょうか。それなら、口座開設時のチェックを厳格にすれば済む話ではないでしょうか。
 
 正規の税理士会等、不正送金とは明らかに無関係の団体の口座を登録しておき、そこへの送金は自由にしても何の問題もないはずです。しかも免許証で本人確認をしたうえ、そのコピーも必要だということで、郵便局側も面倒でしょうが、利用者の不快感は大変なものです。誰が何をどの程度の検討して決めたのか、なぜ免許証の写しまで必要なのか知りたいものです。プライバシーや個人情報の保護が、ある場合は主張され過ぎ、ある場合は相変わらず無視され、定着していないという印象です。


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