第46回「暗記は無用」(2011年7月29日)

学校も夏休みに入りました。小中学生のお子様から質問された時、お父さんお母さんの株が一層上がること間違いなしのとっておきのお話をいたしましょう。

報告書を書く時や人に説明する時に、数字や比率を使わざるを得ない場面は少なくありません。売り上げが前年比で何千万円、あるいは何%増加したというような表現は頻繁に使います。

この時、金額での説明は特に問題ないと思います。問題は比率で表現する場合です。例えば売上が80から110へ増えた場合、絶対額での表示は「30増えた」で議論の余地なく終了です。これに対し、比率で表すとすれば増加分の30を80で割る(①とします)のか、110で割る(②法とします)のか迷います。 30÷80=0.375(=37.5%)増 なのか30÷110=0.273(27.3%)増 なのか、どちらが適切なのでしょうか。

私はこういう場合、通常あり得ない極端な数字を入れてみることにしています。80から110への増加ではなく、80から800への増加だったらどうだろうかと考えるわけです。
増加分は720(←800-80)ですから、上の①法なら720÷80=9=900%ですし、②法なら720÷800=0.9=90%となるわけです。

こうして比較してみれば結論は明らかでしょう。これだけ大幅な売り上げを達成したのに「90%増」で片づけられたのでは頑張った人はやり切れないでしょう。どう考えても「900%増」と評価するのが妥当だと思われます。上記の①法がこの場合の計算法として適切という結論になります。

このことは、子供の学習にも応用が効きます。例えば理科や算数で濃度の違う2種類の食塩水を混ぜた場合、濃度はどう変わるか、といった学習をします。この時の食塩水の濃度を計算するにあたり、分母は「水だけ」なのかそれとも「水+食塩」なのか理屈抜きの暗記では覚えてもすぐ忘れてしまいます。

10gの食塩を100gの水に溶かした場合、濃度は10÷100(分母=水だけ ①法)なのか、それとも10÷110(分母=食塩+水 ②法)なのか迷ったとします。しかしこの数値でいくら考えても分かりません。ここで通常有り得ない極端な数値、例えば食塩200gを100gの水に溶かしたとします(実際には食塩はこんなにたくさん溶けないと思いますが)。

ここで①法なら200÷100=2(=200%)となります。②法なら200÷300=0.67(=67%)となります。ここで、いかに濃い塩水であろうとも濃度が200%というのは考えられませんよね。従って①は誤りで、②法が正しいということになります。

もう少し分かりやすい例を挙げますと、天然果汁100ccと水100ccを混ぜた場合、①法だと100÷100=1(100%)となり、水を混ぜているのに100%天然果汁となってしまいます。誇大広告・虚偽表示以外の何者でもありません。②法なら100÷200=0.5(=50%)で納得がいきます。水と果汁が半々ですから50%で何の違和感もありません。

売上増の場合とは分母に取り込む要素が異なりますから、画一的に暗記する方法では対処できません。極端な数字を入れてみてケースバイケースで考える方法が優れていることがお分かり頂けたと思います。


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