第43回「役に立つ日本語」(2011年7月8日)

手ごろな会計の話が見当たらないので、また無駄話をさせていただきます。

私は日本語に関心をもっているのですが、日本語に関する「アクセント」ということを聞いて不思議に思ったことがきっかけです。英語ならアクセントは学校で習い実感できるのですが、日本語のアクセントとはどういうことなのか、福島県で生まれて育ったので、全く分りませんでした。大学の教養課程ではじめて、福島県や宮城県の大部分が「無アクセント地域」であったことがわかりました。そしてなぜ日本語にアクセントが必要なのか考えましたが、結局わかりませんでした。

そもそも私は二十数年間、無アクセント地域で生活し、その後東京、埼玉と移り住みましたがアクセントなしで何の不自由もありませんでした。「雨」なのか「飴」なのか、「柿」なのか「牡蠣」なのか前後の文脈から判別できます。万一できなければ確認すればいいだけの話です。

もっともこれは、私が無アクセント地域に育ったから感じるのであって、アクセントのある地域で育った人は、よそへ行って違うアクセントに遭遇したらまごつくのかも知れません。東京と関西ではアクセントが逆になる単語があるようですが、こういう違いを気にする人には大きなストレスだと思います。私にはどちらも同じようにすんなり聞こえますから何のストレスも感じません。やっぱり日本語にアクセントなんて最初からなかった方が良かったのではないかと思います。

ところが実は、アクセントの存在を知ってから数年間は、私も本気でアクセントを覚えようとしました。しかし、東京のアクセントが、京都や大阪のアクセントとだいぶ違うということを知ってから覚える意欲がなくなりました。小さい日本のどこのアクセントが標準であるとかないとかはどうでもよいことで、そんな時間があるなら英語を覚えた方がいいと思ったからです。というわけで、日本語のアクセントには興味がないのですが、日本語にはたいへん興味があります。学生時代以降は、小説や落語を注意して読んだり聞いたりして、いろんなことに気がつきました。

まず、田舎では絶対に使うことのない言葉がいくつかあります。その一つは「君、少し手伝ってくれ給え」「弱い者いじめはよし給え」などという言葉ですが、田舎にいるときは、東京では皆こういう言葉を日常的に使っているものだと思っていました。しかし東京・埼玉へ出てきて30年くらい経ちますが日常会話ではこんな言葉を聞いたことがありません。現在下町の中学校に通っている息子も、誰も使わないと言います(「サザエさん」のマスオ君は使うようですが………)。

明治大正時代の小説ではお目にかかりますから、その当時なら実際に会話で使われていたのかも知れません。あるいは山の手なら現在も使われているのかも知れません。とにかく言葉というものは生き物だなとつくづく思います。
ただ、小説から推測するに、結構気取った言葉のようなので、わが家でも「ご子息や、早く勉強始めてくれたまえよ」などと使っています。気分だけですが中流家庭になったような気がします。

逆に、田舎言葉と思っていたら、意外にも江戸落語(古今亭志ん生)に出てきて驚いたものもあります。「おつけ」などがそうです。「おつけ」はみそ汁のことで、田舎ではこの言葉一本でした。みそ汁などという言葉は知っていましたが殆ど使いませんでした。「おみおつけ」は田舎では全く使いません。

関西からの影響を考えさせられるきっかけとなった言葉もあります。小さい頃読んだ本に「メンコ」という言葉が出てきましたが、意味が分かりませんでした。親に聞いても分からなかったのを覚えています。田舎の会津では「ペッタ」と言っていましたが、これは関西の言葉「ペッタン」からきていると思います。モノの値段を聞くとき会津では「これ、なんぼ?」と聞きますが、関西のことばそのものです。

このことから、京大阪の上方文化が日本海を北上して阿賀野川をさかのぼって会津に伝わったということが考えられます。この考えは当たっていると思います。というのは母が『私が小さい頃、父がそのまた父から「俺が小さい頃は、いろんなものを積んだ船が、新潟の方から河を上ってきて来て賑やかだった」という話を聞かされたという話を、父からよく聴かされたと』いう話をしていたからです(正しいと思うのですが分かりにくい日本語で申し訳ありません。イメージを掴んでいただけたら十分です)。

言葉は生き物で、時代と共に変化するということで、江戸時代には江戸時代の、明治時代には明治時代の言葉があり、言葉だけでいつの時代か分かることがあります。江戸時代の映画で昭和の言葉を使用したのではぶち壊しです。だいぶ前の話ですが、当時人気絶頂の歌手が主役を務めた時代劇映画で、主役の侍が「匿って(かくまって)いただいてすいません」とお礼を言ったのを聞いてガッカリしました。ここはやはり「匿って頂いてかたじけない」でしょう。いくらなんでも酷いと思いました。それとも江戸時代の侍は本当は「すいません」と言っていたのでしょうか。ゆっくり調べようと思います。


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