第39回「役立つ会計用語・還付申告」(2011年6月10日)

 前回は、会計から完璧に離れてしまいました。今回は、会計の理解を多少生かして良い辞書・参考書等を選択する方法についてお話ししたいと思います。
 高校生時代、勉強していて不明な点があると、当時はインターネットなどありませんから教師に質問するか、あるいは図書館や書店で調べるしか方法はあ りませんでした。小さな田舎町ですからせいぜい大型の辞書や大学受験用の参考書を調べる程度でしたが、図書館には参考書類は少なく、3軒あった書店も品ぞ ろえは似たり寄ったりで、解を求めて3軒全部回って結局どこにもないとうことが時々ありました。
要するに内容がほとんど同じ、というよりもあちこちの書物から少しずつ借用して繋ぎ合わせただけのような書物が意外に多いということです。同一項目につき、著者の異なる辞書・参考書を比較して、びっくりするくらい同じ記述を見つけることは難しいことではありません。

 第24回のお話で、実効税率の計算式自体はどの本にも記載されているのに、その導出法を示した本が、私の体験では皆無であったということに触れましたが、不明な事項を調べる場合、同種の書物を何冊かき集めても無駄というのでは困ったものだと思います。
 他にもいくつか例があります。例えば「裏帳簿(うらちょうぼ)」、「あい見積(みつもり)」と言う言葉ですが、これは今の社会で特に珍しい言葉ではないと思います。にもかかわらず、有名なI書店の大型辞典(4訂版)にはどちらの言葉も記載されていません。SS堂の2千9百円の明解なはずの国語辞典にも両語とも記載されていません。
裏帳簿という言葉は知っていても、本物と偽物の2種類の帳簿のどちらをウラ、どちらをオモテとよぶのか、「あいみつもり」の「あい」の漢字はどう だったか、意外に分からないのではないでしょうか。ぜひとも掲載すべき単語だと思うのですが。

 次の例として、所得税の還付請求をあげることができます。所得税は1月1日から12月31日までの所得に対して課されるのですが、給与所得者の場合は分割で毎月月給から源泉徴収されます。その源泉徴収額は、その月給が1年間継続するとの前提で計算されています。
年度の中途、例えば2月末に退職(中途退職)してその後就職しなかった場合、その人の年間所得は、1月および2月の2か月分だけです。ですから通常は課税最低額を下回り、税額はゼロとなります。しかし毎月の源泉徴収においては、1年間その月給が続くものとみなして計算していますから当然過大徴収となっています。この人は退職していますから年末調整も受けられません。このような人は還付請求すれば、源泉徴収された所得税が還付されるのです。このことは所得税の本や還付の手引きなどにもきちんと載っています。

 では、中途退職ではなく中途就労、たとえば年の前半は職がなく、8月に就職して12月まで5か月働いた場合はどうでしょうか。制度の趣旨からいえ ば、中途就労も中途退職も同じ扱いのはずです。私が一時期これに該当し、明文で確認したかったのですが、当時いろんな本等を調べましたが分かりませんでした。「還付請求の出来る人」「還付請求すれば税金が戻る方」の例示は判で押したように全く同一でした。医療費が多かった人、中途退職者等は列挙されていま すが、中途就労者という例示はどの本にも記載されていませんでした。
 税務署に確認すれば済むことでしたが、当時はアルバイト暮らしになぜか引け目を感じており、聞けませんでした。思い切って還付の書類だけ揃えて税務署の受け入れ用ポストに放り込み、後はじっと還付を待っていたら意外に早く還付の通知が来て嬉しかったのを覚えています。
 正社員は年末調整を受けますが、私の経験ではアルバイトは年末調整をしてもらえないのが普通のようでした。今改めて最新の本を見てみましたが、昔のままで何の変化もありません。年末調整を受けていない中途就労者も還付請求ができるのに、このことを明確に記載した本が1冊もない(と思われる)のです。中途就労者は年末調整を受ける、という前提に立っているのかも知れません。

 最後にもう一つ例をあげましょう。学生時代、会計の「減価償却」という概念が理解できず苦しんだ記憶があります。「減価償却の資金調達機能」ということも当時よく理解できませんでした。当時の会計の本がどんな記述だったのか調べようにも、特に受験時代の本は引越しのたびに捨ててしまって殆ど残っておりません。
そこで先ほどの2千9百円の明解な国語辞典で「減価償却」を引いてみて原因が分かりました。そこには「時がたつに従って固定資産に生ずる価格の減少を償却費として積み立てること」と記載されていました。当時の国語辞典もこのような記載ではなかったかと思います。わかりにくいというよりむしろ不正確というべきでしょう。

 仕訳を学び、決算整理という手続きの中で減価償却費を計上し、それが利益に影響し(→利益を減少させ)、納税額や配当額を左右する(→資金の 社外流出を抑える)、ということが分かって始めて「減価償却の資金調達機能」が理解できるのではないでしょうか。いきなり理論から入る大学の授業では 「減価償却」がわからず、多分この程度の国語辞典で調べたのだと思います。理解できなくて当たり前でした。
 ちなみに、先ほど第4版が良くないと述べたI書店の大型辞書の第5版の説明は「使用や時の経過などに伴って生ずる固定資産の経済価値の減少分を見積もり、そ の見積もり額を固定資産の耐用年数内の各会計期間に費用として配分する手続き。……」で、これなら減価償却についての国語辞典の説明として十分だと思います。

 ということで、これまでは疑問点の解決にとって書物が役に立たないということが時々あって困っていたのですが、現在は状況が大きく変わりました。多分多くの方もそうだと思いますが、私はネットを利用しています。ネットの情報は玉石混交ですが、自分で考えた解釈、あるいは実務や体験にもとづく有意義な意見や見解なりが予想外に多く、本当に助かっています。悪用したり無断転用したりせず、有効に利用したいものだと思います。
 ネット情報は確かに有用で重宝していますが、しっかりつくられた辞書や専門書はやはり必要で、自分に合ったものを手に入れたいと望んでいます。そのために私はあることを心がけています。手近な資料では解決できなかった用語やテーマを手帳に書き留めておき、その用語やテーマが明快に記載されているか否かを辞書や参考書を選択するときの判断基準のひとつにしています。
 
 今度、国語辞典を買うときは「裏帳簿」「相見積」がきちんと記載されていて、「減価償却」の解説が少なくとも間違いではないものを選ぶつもりです。 自分の得意分野の用語やテーマを利用するこの方法は、良書を見つける有効な方法だと思っています。私の場合は会計用語辞典を選ぶような感覚で選ぶということです。それから専門書なら索引は重要で、索引の有無も選択基準 の一つにしています。辞書や参考書等を執筆される学者先生にはぜひ頑張っていただき、ネット以上のものを世に送り出していただきたいと思っています。


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