第37回「不思議な日本語」(2011年5月27日)

最近のラ抜き言葉や、いちいち語尾を上げる話し方は好きになれないものが多いのですが、そう思いつつラ抜き言葉は自分でもいつの間にか文章で使っていて息子に指摘されるのは情けないと思います。

仕事で使う税務・会計用語などはどうかというと、違和感のある言葉が結構あります。今回は「遺留分減殺請求」「解雇予告手当」「禁治産者」の三つをとりあげたいと思います。

まず「遺留分減殺請求」という用語ですが、相続税に関連して登場します。どこかのお爺さんが財産を残して亡くなったとします。このお爺さん(=被相続人)の財産の処分は、お爺さんが遺言で自由に決めて構わないものでしょうか。お爺さんの財産なのだから基本的にそうあるべきだ、とも考えられます。

しかし、法的にはそのようには考えません。お爺さんの財産であっても、奥さん他の家族の協力があってはじめて蓄積できたというケースがほとんどだと思います。お爺さんが老いらくの恋に落ち、こうした家族の貢献を忘れ、ひっかかった性悪女に全財産を上げたいなどと言い出すかも知れません。年老いた奥さんが路頭に迷うことにもなりかねません。

こうしたことから、すべての財産をお爺さんの処分に任せるわけにはいかないということで民法は、相続財産の一定割合は必ず奥さんや子供等(=相続人)が貰えるように規定しています。この一定割合を遺留分といい、相続人の組み合わせにより異なりますが、多くの場合、それは各相続人の法定相続分の1/2です。ですからお爺さんは、遺留分を差し引いた残り、全財産の1/2しか自由に処分できません。見方を変えれば、この範囲までなら老後を楽しませてくれた若い事実婚の女性に自由にあげる(遺贈する)ことができるわけです。

しかしお爺さんが、この女性に財産のすべてをあげるという遺言を残したとして、その遺言を順守すれば、奥さんと息子の貰い分(遺留分)が侵害されてしまうので、二人は異議申し立てができることになります。これが「遺留分減殺請求」なのですが、遺留分が侵害(減殺)されたのでその回復を求めて請求するわけですから、「遺留分減殺請求」ではなく「遺留分減殺取消請求」とか「減殺遺留分の回復請求」というべきだと思うのです。私は自分の理解が間違っているものと考え、遺留分というのは、お爺さん(被相続人)が自由に処分できる部分をいうのかな、などといろいろ調べたりして結局モヤモヤのままなのです。

次に「解雇予告手当」ですが、これは使用者が予告をしないで解雇する場合に支払う手当で、退職手当として扱われます。労働基準法第20条に定められており、解雇の予告をしない代わりに金銭的な補償をするということです。この制度自体は特に疑問はないのですが、この言葉には違和感があります。「解雇予告手当」は、解雇予告で与えた精神的苦痛に対する手当、のように私には感じられてしまうのです。「解雇予告しないことに対する手当」とは読み取れません。予告を欠くことに対する補償なら「解雇無予告手当」とすべきではないかと思うのです。むしろ素直に「不意打ち解雇手当」の方がまだマシです。

最後に、相続の遺産分割協議等で問題となる「禁治産者」も不思議に思います。「禁治産者」や「行為無能力者」がなぜかわかりませんが駄目ということで使用中止となり、「成年被後見人」「制限能力者」なる言葉が使われています。「行為無能力者」は確かに言葉がきついですが、「禁治産者」という言葉はよく考えられた言葉だと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、洪水等が起きないよう山に植林したり堤防を築いたりして河川を管理することを「治山治水」と云います。「治」は上手に管理することであり、従って「治産」は財産を適切に管理・運用・処分等するということのはずです。浪費癖等により、財産の管理・処分を任せられない人を保護するために、財産の管理・処分権を制限する、あるいは禁ずるという意味の「禁治産」という言葉は誰を侮辱する言葉でもなく、何の問題もない言葉だと思います。なぜこの言葉を排除しなければならないのか理解できません。なにか合理的な理由があるかも知れないので、もしご存知の方がいらっしゃったら教えて頂きたいと思います。


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