第31回「見栄と粉飾」(2011年4月15日)

埼玉でも大地震の余震が続いています。相当傷んでいるはずの原発がこれから来るかもしれない大きな余震に持ちこたえられるか、大津波に対して何か備えをしているのか、原発先進国の支援を受けていても正直言うと不安でいっぱいです。

前回は、気が滅入らないよう自分自身を鼓舞するつもりで、心の底からうちこんだ経験を思い起こして書きましたが会計とは関係のない話でした。

本題に入ります。息子の通った小学校は都心にありました。子供が少ない地域で各学年とも1クラスしかなく、息子の学年は男生徒が20人、女生徒が10人位で構成されていました。男生徒は数名を除いて多くは腕白で乱暴でした。息子は全然強くなかったので、友達はおとなしい数名の男生徒および女生徒のみでした。

Mという生徒が息子に付きまとって時々乱暴するので、途中必ず、美人で強いあやめちゃんの家に寄って彼女と一緒に通学していました。小学生の高学年は女生徒の方が体も大きいし、あやめちゃんは本当にきれいで勉強が出来て運動も抜群だったので、男生徒も彼女には一目置いていたのです。あやめちゃんは、家内に「おばちゃん大丈夫よ、私がやっつけてあげるから」と言ってくれたそうで、家内も私もワラにもすがる思いで彼女の善意に甘えておりました。他の女生徒も口で加勢してくれたり、石を投げてMを追っ払ってくれたりしていました。

小学生3、4年ごろまでは、息子は女生徒と一輪車遊びをしたりしていましたが、小学生の高学年ともなると、休憩時間や昼休みの遊びも男女別々になってくるので、通学時以外はあやめちゃんと遊ぶわけにもいきませんでした。息子はおとなしい男生徒と遊ぶ他は、女の先生にお手伝いを申し出たり、保健室に避難して保健の先生とおしゃべりをして過ごしていたようです。

先生も、初めは「表へ行ってみんなと遊びなさい」と言っていたようですが、そのうち諦めて、息子の為に簡単な仕事を見つけてくれたり、話し相手をしてくれたそうです。息子も保健室へ行きやすいように自ら保健委員長を引き受けたり、学校へ金魚を提供して自分の仕事を作ったり精一杯の努力をしておりました。親から見ると情けない限りですが、本人は至って楽しそうだったので、特に心配するということはありませんでした。

息子はズルをしたり嘘をつくことはなかったので、結構女生徒に好かれており、多くの女生徒の助けを受けながら学校生活を送っておりました。遠足や校外見学等では女生徒に誘われて、女生徒グループに男が一人だけ入って弁当を食べたりしていたのです。また、一緒に映画を観に行ったりもしていました。ある時息子が、今度の休みに、あやめちゃんや花子ちゃんたちを家に連れてきてもいいかと聞くので大歓迎だよと答えました。一度、映画の帰りに女生徒たちが我が家に遊びに来たいと言ったのを、家があまりにも散らかっていたので「散らかっているからもう少し後でね」と断った経緯があったのです。

その「今度の休み」まで数日しかなく、急いで部屋の大掃除を開始しました。以前、会社から支給された皮靴の底が剥がれてぼろぼろ落ち、それがなぜかネバネバしていて玄関の床に張り付いたという話をしましたが(書籍版おもしろ会計 「第34話 ほどほどの競争」をご覧ください)、それをきれいに洗い落としました。

また、テーブルかけを交換し、窓ガラスを磨きました。それまでS形フックを多用してそこらじゅうにひっかけていたタオルや上着等を整理しました。騒音防止と省エネの為に床に敷いていた硬めの風呂マットの汚れを洗剤できれいに落としました。二つの金魚鉢もきれいに掃除して新しい水草を入れ、花子ちゃんに押し付けられた金魚(ナットク会計第35話「ウチの金魚」をご覧ください)を大事に飼っていることが分かるようにしました。

いよいよ当日となり、女生徒から電話が入りました。息子はいそいそと社宅の門まで迎えに行きました。4人来てくれました。私は挨拶だけで引っ込み、家内も最初だけ応対し、後は息子と4人に任せました。最初は何やら話し声が聞こえる程度でしたが、すぐに笑い声やら叫び声やらいろんな音やらが賑やかに聞こえてきました。部屋を見たいと言って私の部屋に入ってきたりしたので、打ち解けてきて私もこっそり覗いたりしました。

家には高級回転椅子が2台ありましたが、うち1台は回転部分が壊れ、部品が無くて修理できないため回転部分を取り外して単なる座椅子として使用していました。ちゃんと回転するのは残った1台だけなので、大事に使っていたのですが、彼女たちはその大事な椅子に乗って超スピードでギュンギュン回したり、急に止めて逆回転させたり、3人乗りしたりしてキャーキャー遊ぶので、壊れたらどうしようとハラハラしました。部品がなくて修理できないのに、でも弱い息子がいつも助けてもらっているからがまんしなくちゃなどと思っているうち、胃が痛くなって自分の部屋に引っこみました。

いったん静かになり、また騒々しくなりました。今度はバタンバタンと扉を開けたり閉めたりする音、ガラガラピッターンと引き戸を開けたり閉めたりする音等が聞こえてきました。後で知ったのですが、この時みんなで「宝探し」をやり、あらゆる引き出しや戸棚やらを開けたり閉めたりしていたのです。戸棚等は整理整頓も掃除も怠りなく済ませていたので特にどうということはありませんでしたが問題は冷蔵庫でした。冷蔵庫だけは事前のチェックも掃除もしていなかったのです。気が緩んでいたとしか言いようがありません。

冷蔵室は食べかけの料理と、なぜか極めてたくさんの納豆が突っ込んでありました。冷凍庫はデコボコの保冷材の上に乗っけた丼が傾いていて、そこから流れ出た汁が凍ったままになっていて、たいへん見苦しいものでした。それを見た彼女たちの歓声は、私の部屋まで聞こえて来ました。みんなが帰ってから事情を聴いて、自分で冷蔵庫を覗いてみてさすがの家内も端から見てカワイそうなくらい大いにしょげてしまいました。

家内は早速、冷蔵庫の中身を整理し、汚れを落としてきれいにしました。そしてことあるごとに息子に向かって「ねぇ、あやめちゃん達、また遊びに来たいって言ってない?」と、しきりに彼女たちを招くよう促しました。しかし、なかなかうまくいかないうち埼玉に引っ越してしまい、とうとうきれいな冷蔵庫を見てもらうことは出来ず、リベンジは叶いませんでした。

家族に対しては、恥じらいのカケラもない家内が、なぜか外部の人に対しては異常なほど気を使う所は誰かに似ているなと思いました。会社の社長が、従業員や取引先のためというより自分の名声を汚したくない一心で粉飾に走る例を何例か見てきました。ウチの家内がもし社長をやったら、大雑把故まず間違いなく失敗し、次には失敗を隠そうとして最後は間違いなく粉飾をするということが推測されます。見栄っ張りの主婦は社長に向きません!


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