第15回「キッチョムさん的増資」(2010年12月21日)

 今回は、人との意志の疎通にあたり「ナットクする」してもらうことがいかに大切であるかを改めて気付かされたというお話です。
簿記・会計を苦手とする人達(以下、苦手グループ)と、第三者割当増資について話す機会があり、どういうところでつまずくかについて、私は、とても貴重な経験をしました。題材はつぎのような事例です。

 超ワンマンのA社長が支配している甲株式会社(以下、甲社)が増資をしました。甲社は、一般投資家から広く出資を募(つの)る『公募』ではなく、特定の第三者から資金を提供してもらう『第三者割当増資』という方法を採用しました。
 増資というのは、株式会社で資金が必要になったとき、株式(≒株券)を発行し、それを投資家に引き受けてもらうことです。会社はおカネと引き換えに株券を、投資家は株券と引き換えにおカネをそれぞれ相手に渡します。会社は必要な資金を得、投資家はその会社の株主となって配当を受取ったり、株価が上がれば誰かに売却して売却益を手にすることができるわけです。
 ここで資金を提供した第三者は、他でもない甲社のワンマン社長Aです。Aが自分の会社に出資することは、別に何の問題もないのですが、それは、あくまでもAが自分のお金を出す場合に限ります。Aは、甲社の預金口座から必要な資金を引き出して、あたかも自分個人のお金のように自分の名義で、甲社の払込資金受入れ口座へ振込み、甲社が発行した株式を取得したのです。

 この事例に対して、苦手グループは、『確かにAは、甲社のお金を勝手に引き出しているが、増資引受に伴う払込みという形で、同じ甲社の別口座に資金を還流させている。だから問題ないんじゃないか。』と主張するのです。『一たん盗まれたお金は、結局戻ってきた』というのです。
 これに対し、「増資引き受けに伴う資金の払い込みは、甲社の株券(株式)を取得するための、いわば購入代金の支払いであって、それより前に盗んだ甲社の資金を弁済するためではない」、ということをいくら説明しても分かってもらえませんでした。
 増資ということが理解できないためか、と思って増資の説明もしたのですがナットクしてもらえませんでした。私は、一生懸命考えてとうとう妙案を思いつきました。そして以下のような説明をしたのです。

 ある男Bが、有名な和菓子屋乙から800円を盗んで逃走しました。首尾よく逃げ切って一晩熟睡し、翌日、乙まで様子を見に行きました。乙の店員が怪しむふうも無いのでBは安心し、昨日盗んだ800円でお饅頭を10ケ買いました。
乙は、盗まれた800円が無事戻ってきたので何の損害もなし、です。BはBで、大好きなお饅頭を10ケも食べられてメデタシメデタシ、ですよね?


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