第86話 「楽しい日本語(11)」(2014年8月31日)

 8月のある暑い日のことだ。2階のエアコンのある部屋に家族が集って無駄話をしていたら家内の口から「バンカラ」と云う言葉が飛び出した。息子はこの言葉が初耳らしくどういう意味かと聞いてきた。簡潔に説明しようとすると結構難しい。国語辞典は1回のリビングに置いてあるのだが、モアーッと暑いリビングまで取りに行く気がしない。
 
 仕方がないのでイロイロ例を挙げて理解させようとした。「バンカラってのは、ワイルドってことだ」「リンゴなんか皮を剥かないで食べるってことよね」「そうだそうだ、バナナなんか古くなって黒ずんできたやつでも平気で食える人、ということだ」「野卑と似てるけど下品とは違うよね」「そうそう、そのとおり」「………」
 わが息子はこれを聞いてもピンと来ないようなのでさらに例示を追加した。「焼肉屋で肉が生焼けでも食える逞しい人ということだ」「おっかなびっくり食べるんじゃバンカラじゃないよね」「そうだそうだ、平気で食えるようでないとダメだ。のどが渇いてるとき飲み水がなかったら、花瓶の水を平気で飲んじゃう人のことだ」息子は「カラダこわすよ」などと情けないことを言っている。 

 ここで私はとても分かり易い実例を思い出した。昔、寮に入ってたとき、大鍋でインスタントラーメン作って皆で分けて食ったことがある。ガツガツ食い始めてしばらく経ったとき、一人がどんぶりの中に縮れた体毛を発見して騒ぎだした。このとき5~6人の寮生は、「もう腹いっぱいだ」といって食うのを中止した奴と、「食っちゃったものはしょうがない」と最後のスープまで綺麗に飲み干した奴と、2つのグループに分かれたのである。
 
「最後まで綺麗に食ったグループをバンカラって言うんだ」と教えたら息子は「ひぇー汚ったねー」とゲタゲタ笑いながらも大いに理解した様子であった。この時ラーメンを作ったのは私である。これを聞いた愚妻は「お父さん、他の人に食わせまいとして自分のをむしってナベに入れたんじゃないの」ととんでもないことを言い出した。「そんなバカなことをする筈がないだろ」と言うと「お父さんならやりかねる」ときた。発想もおかしいが日本語もおかしい。
ちなみにこの大ナベは私の所有物で、卒業後もずっと大事に保管していたのだが愚妻が数年前に勝手に捨ててしまい今はない。本当に残念なことである。


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