第85話 「楽しい日本語(10)」(2014年7月22日)

少しずつではあるが楽しい日本語が蓄積されてきた。最近のことだが、調べ物をしていたら家内がそばにやってきて、「大(=息子)が背中が張ってるからモミモミしてほしいって言ってたわよ」という。「いつがいいんだ」と聞くと、「勉強してたからキレのいいとき知らせるよ」という。それを言うならキレじゃなくてキリだよ(キレがいいとか悪いとかはオシッコの話だ)。

 テレビの天気予報が大雨の予想で、土砂災害に注意を………などと呼びかけているときに、土砂(どしゃ)という読みで思い出したらしく久しぶりに自ら昔の思い出話を始めた。「私、大(=息子)が女の子だったら『サリ』っていう名前にするつもりだったの」と言い出した。「赤坂に住んでたころは上尾の家にはめったに来なかったじゃない。だから駅から家までの途中にジャリ屋さんがあったの気付かなかったのよ。それが偶然あそこの看板の『奥隅砂利店』っての見て『いやだ、この字、サリじゃなくてジャリって読むんだわ』って気付いたのよ。大が女の子だったら今頃「ジャリ」「ジャリ」っていじめられていたわ。女の子じゃなくてよかった、危なかったわ」と言ったのだ。「そんなの俺が間違いなく気がつくよ(何を心配しているんだ!)」

 息子が学校から持ち帰った英語のプリントを見ていた家内が「ねぇこれマキマツでいいの?」と聞いている。「何それ、一寸見せて」と息子も何のことやらわからないようす。しかし家内はプリントを息子に渡さずシッカリ握っている。アカ松とかクロ松なら分かるがマキマツとは一体なんだ。マッ黄色の松か?と思ってプリントをひったくって見てみたら「詳しくは「巻末」を参照して下さい」と書いてあった。「カンマツ」より「マキマツ」のほうが文学的でいいような気がしてきた。
 「ホトケってどこの国?」「フランスだよ」「ツユは?」「ロシアだよ」以上、文字を見ないで答えた。長年夫婦をやっていると家内の質問の背景が聞かなくとも分かることがある。

 ごく最近、上尾のお年寄りのケチぶりに関してまた迷言が飛び出した。現在の埼玉県行田市に昔あった忍(おし)城が石田三成に水攻めされたことがあった。この時、相場の2倍の手間賃に釣られてこの近辺の農民が多数応募し、水をせき止める堤(つつみ)の工事に従事したそうだ。忍城は持ちこたえたそうだが、自分たちのお殿様よりもおカネをくれる敵の殿様の味方をしたということだ。
 このような歴史と伝統のあるこの近辺の方々のケチぶりは筋金入りだ、ということで珍しく夫婦の意見が一致した。近場の格安料金の天然温泉で一緒に湯につかっていたお年寄りたちが、ソフトクリームが小さいなんて話をしていたらしい。それを聞いた家内が「おカネたんまり持ってるくせにあまりにみみっちい話を堂々としているから固まってやろうかと思っちゃった」らしいのだ。家内に固まられても傍にいるお年寄りは誰も困らないだろう。なにより自分の意志で固まったりほぐしたり出来ないと思うのだが…。


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