第29回「繰り上げ返済」(2011年4月1日)

持家と賃貸とどちらが有利かという議論は、いずれの立場にもそれぞれ根拠があり、一概にどちらが有利と断定できませんが、個人的には持家がいいと考えています。高齢になってから、何らかの理由で賃貸住宅の借り換えを迫られた時、かなりの困難を伴うと思われるからです。大災害にあった時は賃貸の方が身軽にみえますが、被災後の代替の住宅確保が困難であることは持家も賃貸も同じで、賃貸が有利とか身軽ということはないと思います。住宅ローンと家賃の二重負担については、火災・地震保険で相当程度解消できるはずです。

いずれにしても、住宅ローンは早めに返済してしまった方が何かにつけて身軽だと思います。今回は住宅ローンの早期返済の切り札である繰上返済についてお話しいたします。面白い内容ではありませんが、御存じでない方にはぜひとも知っておいて頂きたいテーマの一つです。

私は、仕事上いろいろな部署、職業の人と接触できたほうではないかと思います。そこで感じたことですが、経理関係者は別として、それ以外の部署、職業の場合、住宅ローンを借りていながら繰上返済ということにあまり興味を持たない人がとても多いので驚きます。

長期にわたって異常な低金利が続き、普通預金の金利などはまさに通帳のシミと間違えるくらいの微々たるもので、私たちには、金利=ゴミ=無視すべきもの、という意識が刷り込まれてしまったのかも知れません。そのため、金利について関心を持たないのではないかと思います。

長期にわたる累積が大きな効果をもたらす例はたくさんあります。例えば、誰もが子供の頃聞いたことがあるのではないかと思いますが、「第1日目は1粒、2日目は2粒、3日目は4粒…というように、毎日毎日、前の日の2倍のコメ粒を貰うとすると、30日目にもらえるコメはどのくらいになるか」というような話は想像もできない結果を示してくれます。

あらためて計算してみると、正解は5億3687万912粒ですが、これは約6万7958合(ごう)≒6795升≒169俵≒1万193kg≒10トンになります。これは1合=7900粒として計算しました。

「1合=7900粒」の根拠は、実際に数えてみた結果です。昔、高校の教師が1合の米粒を数えたことがあると自慢して、それが何粒か教えてくれました。若いころは何粒だったか覚えていたのですが、今では完全に忘れてしまったので、自分で数えざるを得ませんでした。1合のコメを目分量で10個の山に分け、その山を家内と私で1山ずつ数え、各山の値に大きな相違がないことを確認しました。このことからカウントミスがないものとしてそれを合計しました。サンプルが小さいので多少の誤差はあるかも知れません。

年金も同様に期間の長さがモノをいう代表例だと思います。給料がそんなに高くなくても払い込み期間が長ければ相当な額になります。退職金も在職期間の長さに大きく依存します。

住宅ローンは、普通のものでも30年前後と、年金や退職金と同様に長期にわたります。仮に2%の固定金利で3千万円を35年ローンで借りたら、利息総額は表1に示すとおり、1173万円となります。
(表1)

繰上返済

この表1は、エクセルという表計算ソフトが入ったパソコンがあれば容易に作ることが出来ます。下の表2どおりの配置で、表2どおりの式を入力するだけです。もちろん式はすべて半角文字です。表2の二重丸の入ったマス目が、エクセルの表のA列1行のセルとなることを前提に式は作ってあります。勿論、借入期間に合わせた月数分(35年なら420ヵ月)だけ表示場所が必要ですから、それだけの「行(420行)」に式をコピーする必要があります。そして最後に最下段の行に合計式を入れれば出来上がりです。
(表2)

繰上式

この式が出来れば、借入金額、返済期間(年)、利率を変えてみることにより利息総額がいくらになるか瞬時に分かります。この表は、金融機関から送付される「返済のご案内」や「ご返済のお知らせ」の表と同一の表です。

表1により、毎月の返済額は一定ですが、その内訳は毎月変化していることが分かります。返済が進むにつれ元本が減ってきますから、各時点で実際に借りている元本に応じた利息が次回の利息となり、支払額との差額分が元本返済に充当されます。これを420回繰り返してちょうど完済できるよう計算されているわけです。

好奇心の強い方の為に実際に確認してみましょう。
表1の第417回目の返済額をご覧ください。返済額99,379円のうち、利息分は660円となっています。この金額は、前の回の第416回目の返済終了後の借入残高(=元金残高)が395,865円ですから、これに金利の2%を掛け、12で割って1か月分として算出されたものです。
395,865×0.02÷12≒660
利息分を控除した残り98,719円が元本の返済に充当されています。以下、同様の繰り返しです。

ここでいよいよ繰上返済の話に入りますが、繰上返済とは毎月の定額の返済とは別に、臨時的にまとまった資金を返済することです。まとまった資金として百万円程度以上を要求するところもあれば、数十万でも可能というところもあり、金融機関により様々です。

繰上「返済」は、言葉どおり「返済」ですから、利息の支払いに充当される余地はありません。全額が元本返済に充当されます。百万円の繰上返済ならば、表1の返済予定表の上から順に、元本だけを合計百万円になるまで加えていきます。日割り計算などせず、あくまでも月返済額単位で集計しますから百万円ちょうどになることはまずありません。実際の繰上返済額を調整するので、百万円を多少上回るか下回る金額となります。

百万円前後の繰上返済で、仮に17ヵ月分の元本がごっそり消えるとすれば、繰上返済後の借入残高(=元金残高)は、表1の第1行目から17ヵ月分(=17行)下の行の借入残高(=元金残高)となります。ここから、次の返済が始まるわけですから、この17行のすべてが消えるわけです。17ヵ月分の利息もそっくり消えます。つまり、繰上返済では、まず元本がその額だけ消え、それに付随している利息も自動的にきれいに消えるのです。

返済開始の初期のほうが、各月の返済額に占める元本割合が小さいので、同じ百万円でも返済できる月数が多くなります。初期の方が月数が多く、しかも返済額に占める利息割合は元本とは逆に大きいので、消滅する利息は多額となります。したがって繰上返済は早ければ早いほうが有利なのです。金利が4%程度の頃はこの効果はさらに大きく、初期段階では百万円の繰上返済により2百万円以上の利息が同時に消えたものです。つまり、百万円の繰上返済により、元利合計で3百万円以上が消えたのです。繰上返済は、親戚知人からかき集めてでも早い段階に集中すべきです。返済終盤になれば、消える利息は微々たるものとなり、メリットは殆どありません。

ある職場で、家を買った真面目な人が毎月の返済の他に、同時に積立もしていて、その積立額が5百万円になっていることが分かりました。繰上返済のメリットを教えてあげました。当時の金利は今よりずっと高く、金額も5百万円と大きいので、返済期間の初期段階か終盤かで異なりますが、メリットはかなり大きかったと思います。

その後、私は招かれてこの人の家に行き、紅茶とクッキーとアイスクリームを御馳走になり、小さな鉢植えを二つ頂いて帰りました。私のアドヴァイスのおかげで数百万円の節約ができたと思われるのに、たったこれだけのお礼でした。シッカリしていないようでずいぶんシッカリしている人だなァと感心しました。


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