第27回「手形交換」(2011年3月18日)

 今回は、手形・小切手についてのお話です。
会社員時代は手形・小切手は支払いの代用手段との認識のみ、会計士受験中は勘定科目として勉強しただけでした。会計士となってからは、中身も知らないといけないので、本を購入して勉強しました。

 手形・小切手に関する本は、実物の写真が掲載されていたりして総じて分かりやすいものが多かったのですが、こと手形交換に関しては、仕組みというか理屈は書いてあるのですが、具体的な交換のやり方について記した本には出会えませんでした。どうしてもイメージがつかめないまま月日が流れていきました。凝り性の私は、手形交換所に電話で質問したこともありますが、やはり百聞は一見にしかずで、何とか手形交換所を見学したいという気持ちは高まりましたが、それなりの人数がそろわないと難しいとの事で、欲求不満は解消されないままだったのです。
 
 数年前にようやく、職場で学習意欲を有する希望者を必要数確保して見学を申し込むことができ、念願の東京手形交換所および横浜手形交換所の見学が実現いたしました。そして、結論から言うと、両手形交換所の見学で長年の疑問が氷解し、非常に満足のいくものでした。改めて解説等して下さった関係者の方々にお礼申し上げます。

 見学当日の午前中にまず横浜手形交換所を訪問し、営業時間中に実際の業務を見学させていただき、まさしく手形の交換であることを実感しました。
毎朝9時ごろ、加盟銀行の担当者が集まってきます。各行専用のテーブルが決まっていて、そこに手形の束を入れるカゴが置いてあり、そこに支払銀行別に束ねられた手形の束を入れていきます。

束の一番上には、集計票が乗っかっています。集計票の名前は忘れてしまいましたが、交換所に持ち込む前に、各銀行がそれぞれの支払銀行別に束ねた手形の枚数と金額を集計して記載したものです。交換当日は手形・小切手の枚数だけを数えて集計票の枚数との一致のみ確認し、金額の一致については、持ち帰ってから確認するということでした。なお各銀行では、手形をMICRという機械で読み取れるように、交換所に持ち込む前に、手形用紙の最下段の、磁気が塗布された部分に金額その他の情報を打ち込んで記録する、ということでした。

相当な枚数になるはずの手形の受け渡しで、金額を確認・集計して受領書(領収書)を書いていたのでは大変ではないか、機械で読み取らせて自動的に集計値を出すにしても、漢数字で記載された手形はMICRでは読めないだろうから手作業が必要なのではないか、一日で終わるのか、等の長年抱き続けてきた疑問が一気に氷解したのです。このような工夫によって、横浜の交換所では交換自体は30分もかからず終了し、担当者はそれぞれの母店へ持ち帰ります。
その後、持ち帰った手形・小切手の各支店へ振り分け、各支店での、印鑑相違、裏書の連続といった手形要件のチェックや盗難届けの有無の確認、残高不足の顧客への連絡等の業務が待っているということですから、戦場のような忙しさというのも無理もないなと思いました。

 東京手形交換所は、業務終了後に訪問し、ビデオ鑑賞、所内の見学、MICR(手形現物の読取・振分け機)の実演、質問への回答という内容だったので、午後からの訪問となりました。
小切手用紙は、衣装箱のような長方形の箱に詰め込み、その箱を積み重ねて運搬や保管をしていました。迅速に処理するために箱を用いず、南京袋に入れたまま受け渡しをし、持ち帰ってチェックするというのも頷けることでした。手形の扱い量は全盛期と比べて大幅に減少しているということでしたが、それでも膨大な量で衣装箱のような箱へ詰めた手形用紙が「都銀なら1行でこのロッカーいくつ分が毎日の平均です」というような話にただただ驚くばかりでした。

 日本にもいろいろな取引所がありますが、東京証券取引所は大分前から機械化(電子化)されて、場立ちと呼ばれる人たちが忙しそうに動き回る様子などはもはや見ることはできません。半蔵門にある金融取引所もパソコンやらサーバーやらが広い部屋にズラッと並んでいる中で仕事をしているだけで、取引をしているという実感はありません。人が一カ所に集まって取引をするという判りやすい形態が残っていて、見学可能な所はそんなに多くないように思います。手形交換所は学生の見学実習等に最適ではないでしょうか。

地方出身の学生が殆どだったので「東京駅を見下ろす場所で食事」を目論んだのですが、東京駅が改修中で実現できなかったのが唯一残念なことでした。


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