第9号「求人は真剣に」(2012年6月2日配信)

景気の動向を知るために今でも求人広告や求人雑誌をながめたり読んだりします。学生の頃、あるいは会計士受験時代にも求人広告等は頻繁にみていました。そして最近、昔と今とで求人広告に大きな変化が生じていることに気がつきました。それは最近の求人広告は、年齢制限をしていないということです。

昔の求人広告は、多くの場合「30歳まで」「45歳位まで」といった条件がついていました。一流と云われる企業が特にひどく、新卒学生の募集要項には必ず「昭和○年○月○日以降誕生の方」という条件が付されていました。この誕生日による制限は、要するに高校・大学の受験2浪までがセーフ、3浪は入社試験の受験資格なしの門前払いということです。雇用に対する企業の社会的責任などといった認識は皆無の時代でした。最近の広告は年齢については何も記載がないか、「年齢不問」と記載されているのです。

諸外国では仕事さえ出来るなら年齢は問題にしない代わりに同じ仕事には同じ賃金を払うということや、わが国でも採用にあたって年齢で差をつけることは問題視されつつある、というようなことは聞いていました。今では誰も彼もがグローバリゼーションということを口にしますからその影響で経営者の意識が変わってきたのか、とも考えました。しかし年配の経営者が急に変わるはずはなく、たぶん何らかの規制が始まったのだろう、良い傾向だ、と思っていました。

ところが実際は、良い傾向ではないことが分かりました。求職活動中の女性の体験談ですが、ある会社の面接で「力仕事もやってもらうから男を募集していた」と言われたというのです。性別は書類選考の段階で分かるはずだし、そもそも求人広告に明記すべきではないか、との怒りは至極尤もだと思いました。

法律による規制なのか行政による指導なのか分かりませんが、求人広告において年齢で差別的扱いをすることが出来なくなり、表面上平等を取り繕っているだけということが分かりました。規制に抵触しないように求人広告には「健康な男女募集」と記載し、採用する気もないのに書類選考合格の通知を送り、面接まで足を運ばせてから落とす、ということですから実にたちが悪い。昔のように明確に「30歳以下の男子募集」とするほうがよほど親切です。応募者が無駄足を運ぶことにもなりません。

労働災害や児童虐待、仰天教師の不祥事等が頻繁に起きています。そのたびに、関係官庁の上役がマイクの前に出てきますが、彼らは、知らなかった、驚いている、このようなことが二度と起きないように対処したい、といった決まり文句しか話せません。具体的な対策やら強い決意など聞いたためしがありません。そして同じような事故が繰り返されています。

世の中全体に、魂の全く入っていない人権擁護、平等主義がはびこってきて、言葉狩りも異常な状況です。行政は、言葉を変え、書類を作って形式さえ整えれば責務は果たしたと考えているのではないか、と疑いたくなります。実効性があろうがなかろうがそんなことには頓着なしのようです。規制するなら、それによってどんな影響が出るのか予測してほしいし、さらにどんな影響がでているのか事後的な検証をしてほしい、と思います。

規制が効果をあげているのかいないのか、外に出て検証することが重要でしょう。合理性を欠く無理な規制をしても民間は抜け道を考えます。その結果、事態はさらに悪化するのが通常です。そんな規制なら廃止すべきです。逆に、正義に適った必要不可欠な規制が守られないのなら罰則を設けてでも守らせるべきだと考えます。

当然のことながらこういう扱いを受けた求職者は、会社に対してきわめて強烈な悪感情を抱きます。むしろ敵意と言ったほうがいいかも知れません。経営者はこのことはよくよく肝に銘ずべきだと思います。雇う気がないのなら面接まで呼び出すべきではないし、いわんや「法律で決まっているから年寄(女性)も書類合格に入れなくちゃいけない」などと言うべきではありません。

それにしてもなぜ経営者というものは、若い男ばかり採用したがるのでしょうか。高齢者の実力を生かしきれないのはもったいない限りだと思うのですが。


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