第86号「誰でもストレス」(2018年11月17日配信)
 数年前の夏の話です。仕事で、栃木県随一の大都市U市に行きました。私はいつも約束の時刻より早めに行って現場で待機します。約束より2時間早いことも珍しくありません。そんな時は近くのコーヒーショップで、資料に目を通したり準備をします。落ち着いて集中できるので数十年この方式を守っています。仕事であちこち行きますが、どこにドトールがあるかベローチェがあるか大体記憶しています。
この日も約束より2時間早くU駅に着き、駅ナカのベンチでとりあえず休憩に入りました。目の前に園芸用パイプで作られたアーチがあってゴーヤの蔓(つる)や葉っぱががわんさか伸びて茂っていました。小さなゴーヤの館(やかた)のようでした。近くに行ってみると唐辛子くらいの大きさの実がたくさん付いていました。
私も今年の夏は緑のカーテンで猛暑をしのごうと、2階のベランダにプランターを置き、ゴーヤの苗を購入して栽培したのです。が、私のゴーヤは葉っぱも小さく、実もまばらで相当に情けない状況だったのです。
どうしてこんなに違うのか、と思いながら観察しましたが、土が違うようでした。ここの土は園芸店で売っているようなフカフカした土でした。私の場合は、自分で剪定した山茶花の葉に庭の土を混ぜたものを使いました。山茶花の枝葉は十分に腐りきっていませんし、土も古くなってコロコロに固まってしまった土でした。
「園芸店で土を買ってきてプランターに補充してみるか」などと考えながらベンチに戻り、仕事の資料を読んでいると、地下足袋を履いて作業ズボンをはき肌着のシャツを着た日焼けした60歳くらいのおっちゃんがやってきました。私と女子高生の間の30cmくらいの隙間に持っていた風呂敷包みを置くと、ゴーヤの館に近づいて丹念に観察を始めました。
私はてっきりこのおっちゃんが、JRかU市の委託でゴーヤを栽培し、育ち具合をチェックに来たのだろうと思いました。それならゴーヤ栽培のコツを教えてもらおうと話しかけようとしたら、でかい声で何かわめき出したのです。そして自分の風呂敷包みのところに座ろうとするので少しスペースを広げてあげました。おっちゃんは今度は小さな声で何かブツブツつぶやきだしましたが、よく聞くととても卑猥なことを言っているので隣の女子高生はそそくさと逃げてしまいました。
おっちゃんは、風呂敷包みを残して再び席を立つとどこかへ消えてしまいました。しばらくするとカップラーメンのようなものを持って戻ってきてゴーヤの館に向かって立ったまま食べ始めました。途中むせるたびに口から何か飛び出し、ゴーヤに付着したようですが全然気にしないようでした。
食べ終わるとまたでかい声で怒っているのですが、私は不思議な感じがしました。精神を病むのは、一日中パソコンを使うとか複雑な人間関係に巻き込まれたとか、厳しいノルマを課されるといった状況下で気分転換の機会もないようなケースであって、おっちゃんのように屋外で体を使い健康的に日焼けした人にはそのような心配はないと思っていたからです。
周囲を気にせずにマイペースで生きているように見えても、また大きな声でわめいて十分発散しているように見えても本人にすればいろいろとストレスはあるのかなぁと感じました。
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