第80号「実験ノートと会計帳簿」(2014年4月23日配信)
STAP細胞のニュースが度々報道されている。当初は、IPS細胞よりも格段に容易に作れるという発表だったので、素晴らしい大発見だと嬉しくなった。同時に、IPS細胞発見者(製作者?)の山中先生の立場はどうなるのだろうと心配になったのも事実である。
しかし報道が進むにつれ、どうにもこうにも何と言っていいのか、当事者の発想にはついていけないところが多い。気長に今後の推移を見ることにした。
今回の事件で面白いと思ったのは、何度も報道された「実験ノート」である。綴じ込み式になっていてページの差し替えや補充が出来ないこと、鉛筆による記載は禁じられていること、余白は止め印で消して追加書き込みを不可能にすること、日付や署名のほかに通常は上司の判子が必要であること等、会計帳簿と似ているということだ。ノートの値段がかなり高い、というところまでソックリだ。
研究者が大勢登場したが、全員この実験ノートは自分の研究の適正さを証明する証拠資料である、研究者にとって命の次に大事なものである等とコメントしていた。こういったコメントはそのまま経理帳簿と経理担当者の関係にも当てはまることで、会計帳簿は決算書の適正性・真偽が問題となったとき強力な証拠資料となるのだ。
ただ私がテレビを見た範囲では、この実験ノートがなぜ証拠資料となるのかについて本質的なコメントは聞けなかった。ボールペンで書くとか差し替え出来ないと云うことも勿論証拠力を高める要因だが、所詮は自分で作った資料に過ぎない。それがなぜ証拠資料と認められるのか、について疑問を呈した人も的確に解説した人もいなかったようだ。
実験ノートや経理帳簿等がなぜ強い証拠力が認められるのか考えてみたい。毎日かかさず規則的に事実を記録し、事実を積み重ねて作られた資料というものは、他の資料や関連する事実とは当然ながら整合性が確保されるはずである。会計帳簿には、会社の経営についての矛盾のない大きな流れが認められる。実験ノートも同様ではなかろうか。この実験でこういう異常値が出たから次にこういう実験を実施したとか、方向転換をしたとか、濃度を変えたとか、材料を変えたとかという科学的に合理性をもった流れがあるはずだ。それが読み取れる記録であればこそ裁判官も証拠として認めるのだろう。
つまり毎日毎日事実に基づいて作るから、他の関連資料とも矛盾のない、また合理的な行動という観点からも矛盾のない帳簿となるのであって、想像やウソにもとづいて自分に都合のよいように後からこれと同等のものを作ることは不可能だ。事実に反する作り話は必ずどこかに矛盾が出るものだ。
そういう意味では毎日欠かさずつけている日記、航海日誌等も証拠力は強いと判断される。勿論ボールペンよりもインクによる記録のほうが証拠力は高い。インクは経年による変色があり、古い資料に後から書き加えれば露見してしまうからだ。
経理担当者と医学研究者の間に人事交流があるとは思えない。それでも同じようなシステムを作り上げて運用しているというのは、どんな仕事であれ適正に遂行するための基本・原則は異なる所はないということだろう。
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