第8号「本当に借りたほうが得?」(2012年5月26日配信)

1990年代のバブル崩壊後の世の中は大きく変わりました。出生率は一向に上がらず、一人息子や一人娘の家庭が珍しくありません。さらに加えて晩婚化が進み、単身家庭も増えています。最近では、一人っ子同士の結婚で住宅が一つ余っちゃったなどと言う話をよく聞きます。住宅の建築は進み、日本全体では住宅戸数が世帯数よりも多いそうです。

確定申告の相談を受けると、アパート経営などは空き室も多く相当に苦しい、というのがほとんどです。「住宅なんか慌てて買う必要はない」と人々が考えるようになったと感じます。さらに加えて長引く不況、将来が読めない中でローンを抱え込むことへの不安から、住宅への需要は落ち込んだままです。地価はますます下落し、土地神話時代とはまさに逆の回転が続いています。

事業用物件についても、賃貸を薦める書物や意見によくお目にかかります。最近読んだ書物にこんなのがありました。
① 賃貸ビルの場合
利益(家賃1000万控除後)=2000万円
法人税等(40%と仮定)=2000万円×0.4=800万円
手取り現金=2000万円-800万円=1200万円
② 自社ビルの場合
利益(家賃1000万なし)=3000万円
法人税等(40%と仮定)=3000万円×0.4=1200万円
自社ビル購入費借入の返済=1000万円
手取り現金=3000万円-1000万円-1200万円=800万円
以上から、賃貸のほうが有利、というものです。

この計算はかなり雑です。賃貸ビルの場合の家賃を経費として計上しながら、自社ビルのケースについての固定資産税を経費として計上していません。物件購入のための借入金に係る支払利息や建物の減価償却費も経費として計上していません。さらに「利益」と「手取現金」を区別せず同列に扱っています。最終判断を「手取現金」の比較で行っているくせに、自社ビルのケースでのみ発生する建物減価償却費を加算していません。減価償却費は現金が流出しない経費なのでここでは加算しなければいけません。

ただこれらを加味して再計算するにしても、金利や家賃、借入金の返済期間等により結果は大きく違ってきます。ですから上のような試算で賃貸が有利とか不利とか即断できないはずです。

不動産を所有するということは、それを利用しないならば固定資産税を取られるだけの不良資産です。しかし、自社物件として利用するのであれば立派な資産であり特に問題となることではありません。借入金完済後は新たな借入の担保となります。売却すればキャッシュが入ってきます。経費を増やしたいなら社長へ売却して改めて家賃を払って借りればいいだけの話です。

結局、今後の一定期間につき一定の仮定の下、予想利益、地価、土地と建物の価格比、固定資産税率、法人税、割引率等すべての要因を取り込んで試算してみないと判断は出来ないということです。これらの要素をいろいろ変化させてみてどちらが得か瞬時に分かるようにパソコンに式を打ち込んで強力なツール完成させたいと思っています。とても有益な強力ツール! 完成したらお知らせしないで自分だけで使っちゃおう。頑張るぞ!


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