第70号「一勝一敗」(2013年8月3日配信)

監査という仕事を、世間一般の人はどのようにとらえているのでしょうか。大分前ですが監査に関するTVドラマが放映されたり、新聞にも監査関連の記事が掲載されたりして大分変化が見られます。以前は、痩せて眼鏡をかけた会計士が、電卓やパソコンを使って、経理関係の資料を調べて計算ミスを見つける、というようなイメージが一般的だったような気がします。

実際には、眼鏡をかけていない太った会計士は多いし、計算ミスを見つけることもありますが、それが主たる仕事ではありません。休憩時間には朗らかにバカ話をして大笑いしたり、かなりネアカな人が多いように思います。

今回は、そのバカ話の一部をご紹介しようと思います。会計士で一つの監査法人に定年まで勤める人はそんなに多くはないようです。私もいくつかの監査法人にお世話になり、以下の話がどの監査法人時代の話だったか忘れてしまいました。内容だけ覚えているのです。バカ話ですから、下品だとか品位がどうだとかあまり真面目に考えないようお願いいたします。

あるとき、おならは何故臭いのか、という話になりました。私は、何かの本で食事のときに、食物と一緒に空気が飲み込まれて胃の中に入る、ということを読んでいたのを思い出し、それがおならの原料だろうと判断しました。大腸のなかで長時間ウンチと同居していれば、当然臭いも移るだろうと主張したのです。

これに対してA君が、食物の醗酵やら腐敗で硫化水素とかメタンガスが発生するから、すなわちおならは腸内で新たに製造される、と主張しました。会計士の多くは化学に弱いので、こうした専門用語を出されるとどうしても専門用語を駆使したほうが強くなります。最後は多数決でA君が正解ということになりました。

続いて、鼻汁(はなじる)の正体は何か、という議論になりました。B君が脳みそから出てくるんじゃないか、と言い出しました。脳みその古くなったのが溶けたやつだ、というわけです。それじゃ鼻水はどうなのか、脳みそが鼻水になるはずがないとの反論に対して、鼻水は風邪を引いた時、体液から作られる特殊な奴で、普通の鼻汁とは別物だと再反論したり、普通のシッカリした鼻汁は、脳みそが直接溶けたものではないが、脳みそを使ったときの老廃物の一種だ、などと議論は沸騰してきました。

私は、初めのテーマの議論で敗れていたので、名誉を挽回すべく必死で考えました。シッカリした鼻汁といえば、最近の子供はこぎれいになってしまって見かけませんが、私が子供の頃、たいていクラスに一人ぐらい「ねぎっぱな」をたらした腕白坊主がいたものです。「ねぎっぱな」とは、痰(たん)によく似たきたならしい鼻汁のことです。

わたしの学校では、こうした腕白坊主たちは総じて勉強は得意ではなく、スポーツは幾分得意というのが相場でした。彼らが、人より脳をよく使い、その結果として脳みそから多くの老廃物が排出されるというのは無理がある、とわたしは主張しました。私の考えにB君も含めて全員同意し、わたしは面目を一新したのです。よその地域出身の会計士も、各自の地元にこうした「ねぎっぱな」を垂らした腕白坊主たちがいたが、脳をそんなによく使っているようには見えなかったと証言してくれました。この日の私の戦績は1勝1敗です。鼻汁の原料については、最後まで解明できませんでした。

なお、我々は年中こんな話ばかりしているわけではありません。たまには明るくバカ話もするということです。


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