第69号「増えちゃ困るよ」(2013年7月26日配信)

パソコン関係では、解説本であれマニュアルであれ理解に苦しむことがしょっちゅうでした。しかし、パソコン以外の分野では出版にしてもマニュアル本にしても当然きちんと校正しているようで、そんなにおかしな表現に出会うことはなかったと記憶しています。多くの人が同じ認識ではないかと思います。

今更云うまでもないことですが、パソコン関連本には、まともな人が書いたとは思えない表現は珍しくありませんでした。大分昔のことですが、パソコンの勉強をしようと解説書を読みながらそのとおりに操作を進めていったことがあります。そうしたら最後の最後に「なお、以上の操作をするとパソコンに重大な支障が生ずることがあります」といった記述に出くわしたのです。

このときは本当にショックを受けました。それは自分のパソコンが壊れたかも知れないというショックだけではありません。この解説本を書いた人物の話の進め方に対するショックです。

「以下の操作は機器に重大な支障を生じさせることがあるので、十分な知識のない人は実行しないで下さい」といったことは、文章の真っ先に書いておくべきでしょう。こんなことは小学生でも分かる理屈です。パソコンの世界では、この程度の考えも出来ない大人がパソコンの操作に詳しいだけで一人前に通用していたということでしょう。

日本語がまずいとか下手とかという話ではありません。社会常識の問題です。IT関係者の書く文章には少しは慣れてきましたので驚きはしませんが、彼らは相変わらず珍妙な日本語がお好きなようです。最近では、IT関連本など買う気も起きません。疑問があればまず息子に尋ねます。そのほうが早いしイライラしないし、意味不明のマニュアルなど読むよりはるかに効率的です。

ところが、こうしたIT関係者だけの専売特許が、最近ではいろんな業種に広まってきたようで困ります。先日も帽子を購入したら噴霧式の消臭剤をオマケにくれました。欲しくもありませんでしたが無料なのでとりあえず貰いました。帰宅してみてみたら、その容器に使用法や効能が記載されたラベルが貼ってありました。極めて細かい字で読みにくかったのですが、読まないことには話にならないので読み始めました。

それによると、『用途:シューズ、グローブなど洗濯やクリーニングの出来ない製品に対する抗菌防臭』と書いてあり、「なるほど、革製品なんかに使えるんだな」と思いながらその次をみると『使用できないもの:絹、革、人工皮革………など水に弱い素材』と書いてあるのです。

これって一体何に使えるの?と思いました。とにかく最後まで全部読みました。おしまいのほうに『品名:布製品用抗菌・防臭剤』と書いてありました。これを「品名」と云うのか個人的にはすっきりしませんが、多分役人がそういう規制をしているのでしょう。

この「品名」の記載も含めて総合的に判断して、布製のシューズ、グローブ、帽子等に使えそうと云うことは推測できました。と云うことは、ここでいう「グローブ」は「野球用グローブ」ではなく「手袋」のことらしいことも推測されました(手袋は手袋と言え!グローブと言えば利口に見えると思っているのか!)。そう考えてもグローブが洗濯できないものではないと思いますが……… 最初に挙げた、パソコン解説本と同レベルのラベルでした。


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