第66号「監視カメラの効用」(2013年7月5日配信)

 私はこれまでに数回万引きの現場を目撃しています。ごく最近も遭遇したのですが、万引きをする人間(ほとんど若者)について非常に気になることがあります。

それは犯人が、店員のみマークして店員から見えなければ他の誰が見ていようが平気で万引きするということです。店にいる普通の一般客が見ていても全く注意を払っていないのです。海外ではチンピラが持ち主の目を見ながらカバンなどを盗むなどと云う話を聞きますが、万引き犯はすぐそばに人がいることを知りながら自分のバッグに商品を放り込むのです。これも国際化・グローバル化の一環なのでしょうか。

万引き犯には、悪いという意識がないのか、それとも一般客は通報などしないと信じているのか等いろいろ考えてみました。まず、悪いという意識の有無ですが、店員が見ていない隙に自分のカバンに放り込むわけですから、やってはいけないことという意識はあるのではないかと思います。しかし、単に見つかったら面倒だから店員をマークしているだけであって、悪いと言う意識は弱いのかも知れません。

また、「一般客は絶対に店員に通報しない」と信じているのかと云う点ですが、そう信じる理由はないと思います。現に通報したり店員と協力して一緒に追いかけたり捕まえたりする人はいるわけです。居合わせた一般客にしても「こいつは俺を信頼してくれている」などと喜ぶ筈はないでしょう。逆に「俺が見ているのに平気で万引きするとは………俺を無視してやがるな、通報してやれ」と感じるのが普通でしょう(私がどうしたかはナイショです)。
 と云うことは、何も考えていない、つまり一般客に見つかったら通報されるかも知れないという考えさえ湧いてこない、ということではないかと思います。小学校低学年の子供用の漫画に登場する素朴なドロボーでも、人に見つからないよう夜中に行動しておりました。昔からそう決まっていました。少し高学年用の漫画だとキチンとした服装で白昼堂々と行動するドロボーも登場しますが、それは怪しまれないようにするためのカモフラージュであることを漫画を読む子供たちは分かっていました。
 要するに、ドロボーは人に見つからないようにするもの、ドロボーするときは周囲に気を配るものという理解が出来ていました。勿論、同時にドロボーはやってはいけない、ということも十分理解していました。

 このように昔は子供でさえ当たり前に理解できていたことが理解出来ない大人が出来てしまったということです。「店員は商品を盗まれたら追いかけてくるだろうが、一般客は自分の物でもないのに騒ぐはずがない」という単純な考えしか出来ないのではないでしょうか。

 「盗みは良くないこと、たとえ他人の犯罪行為であっても見過ごせないと考える人や、眼前で万引きされたら存在を無視されたと怒る人がいるかも知れないということに思いが至らない、つまり他人の立場に立って考えることが全く出来ないのだと思います。

 若者の学力低下が頻繁に問題にされますが、ドロボーしちゃいけないというのはそれ以前の問題であり、他人の立場で考えることは学力と同等に重要なことだと思います。監視カメラを設置してもお構い無しに万引きをし、食品に針を混入させたりする事件が後を絶たないのは、周囲に気配りの出来ない人、周囲を見回したり用心したりする事をしない人が後を絶たないせいだと思います。

 最近ようやく消滅しましたが、カツーンカツーンとえらくうるさい音の出るサンダルで駅のエスカレーターを降りていく女が一時増殖しました。こんな欠陥サンダルをどこのアホデザイナーが考えたのか、どこのメーカーが作り出したのか知りませんが不愉快な現象でした。その女が1秒でも早くエスカレーターを降りきるのを願ったものです。

 頭に響く騒音でしたが、欠陥サンダルをはいた女が蹴倒されてエスカレーターを転げ落ちたというニュースは不思議に一度も聞いておりません。駅のエスカレーターを正面から見下ろす位置には必ず監視カメラがありますから、「このうるさい女を蹴落としてやろうか」と思う人がいたとしてもも、周囲を見回して監視カメラに気付いて自重したのかも知れません。欠陥サンダルの迷惑女は監視カメラのおかげで蹴落とされずに済んだとすれば、監視カメラは善良な市民だけではなくこういう迷惑女をも守ってくれたということです。


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