第6号「借入金を減らそう」(2012年5月11日配信)

以前、減価償却がもつ自己金融の機能について少しだけ触れたのですが、今回はこの自己金融および借入金の返済についてお話しいたします。

減価償却費を計上するとこれと同額の利益が減少し、減少した利益に係る法人税分だけ納税額が減少します。他方、減価償却費は費用ですがおカネを支払う必要はありませんので資金の流出を伴いません。ということで減価償却費は納税資金を減らし、企業に資金を留保させる働きがあるところから、自己金融の機能があるなどと云われます。

これとは別に、企業は資金が必要な時にすぐに現金化できるように準備しておく必要があります。例えば、中小企業倒産防止共済、小規模企業共済、生命保険等々はよく知られていると思います。これらも自己金融と呼ばれることがあります。

中小企業倒産防止共済に加入していれば、イザというとき低利の融資が受けられます。小規模企業共済は経営者の退職金の準備としてもまた節税のツールとしても有効です。生命保険は役員の退職金原資や節税の効果も期待できます。
また、役員報酬を無駄遣いせずその一部を貯蓄しておくことは大事なことです。

高度成長期のように日本経済全体のパイが膨張していた時代は、借金はむしろ善と考えられていました。自己資金だけに限定していたのでは経営規模を広げることができず、儲けの機会を失ってしまうからです。当時は「借金も財産である。なぜなら信用があるからこそ借金も出来る」という論調は珍しくはありませんでした。

しかしながら時代は大きく変わりました。国内市場の拡大は望み薄となり、借入してでも規模を拡大して、という時代ではありません。バブル時代に銀行に言われるままに多額の借り入れをして不動産投資をしたものの、その後の地価下落により物件を手放して返済しようにも借金は返せないという人は少なくありません。元本を返せなければ金利を払い続けることになります。では、借入金を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。

まずは、利益を出せることが前提です。税金は少ないほうがいいので節税も重要です。節税の方法は各社の状況にもよりますが、①含み損を抱えた不動産があれば売却し、売却損と事業利益を相殺すること、②節税型保険や共済を活用することです。もちろん節税のために不要な保険に入り、次年度以降に保険料負担に耐え切れないようでは本末転倒です。本業で利益を出しながら節税できれば、会社内に資金が留保されますから借入返済にまわせます。

利益が出ないのであれば社長自身の役員給与を減らし、あるいは個人の資金を会社に出資し、借入返済の原資を作ります。社長の生活を切り詰めるのです。本気で借入金を減らしたいなら当然やるべきことです。だれでも設立当初は生活を相当に切り詰めていたはずです。

もちろんどんな業種も常に無借金経営を目指すべきであるとか、どんな借入も悪であるなどと言うつもりはありません。必要な借入はすべきです。ただ、銀行に言われるままに漫然と金利だけを払って元本の返済は借り換えで先送り、という姿勢ではいけないということです。そのうちに経営環境が悪化して利払いだけで精一杯となり、元本返済まで手がまわらなくなって、返済の意欲も気力もなくなってしまった例をみています。

融資先が減少して国債しか投資先を見出せない金融機関にとって、利益をあげ、借入金をキチンと返済できる企業は「取引したい企業」であるはずです。融資する側からすれば回収できることが最も重要です。そしてそれは借入・返済の実績で判断します。将来の必要時に備えた、今必要のない借入は極力減らしましょう。


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