第58号「棚卸し(その2)」(2013年5月10日配信)

前回に引き続き、棚卸しの実務上の注意点のお話しをいたします。今回は「現物のカウント方法」についてお話いたします。棚卸しのカウント方法は、大きくタグ方式とリスト方式とに分けられます。
タグ方式というのは、昔、豊臣秀吉が藤吉郎と呼ばれていた頃、山の立ち木を数えるために採用したのと同じ方法です。藤吉郎は、縄の切れ端を沢山用意し、それで木の幹を縛り、全ての立ち木が縄で縛られているのを確認した後ほどいて回収し、その縄を数えたのだそうです。

タグ方式と云うのは、縄の代わりにタグと呼ばれる紙切れを使うところが違うだけで本質は藤吉郎方式とまったく同じなのです。このタグにはあらかじめ一連番号が記載されていなければいけません。そしてカウント担当者がこのタグに商品番号や数量を記載し、押印して現品に貼り付けます。

カウント終了後、全商品に漏れなくタグが貼られているか見て回り、確認が済めばタグを回収し、記載された情報を入力します。帳簿残高と比較して差異のあるものについて再カウントするか否かは各社の事情によります。タグに付された一連番号は、回収漏れのチェックに役立ちます。タグの作成等の事前準備、棚卸し当日のタグの紛失防止等の管理が大変ですが、意外にうまくいくものです。

もう一つの方法であるリスト方式というのは、棚卸し前日の業務終了後の商品在庫表を打ち出して、実際のカウント結果とその表とを比較し、必要に応じて再カウントを実施する等して正確な数量を確定していく方法です。一見簡単そうに見えますが多くの場合誤った方法で実施されています。公開支援業務の経験に拠れば、多くの会社で実施されているのは以下のようやり方です。

まず、棚卸し前日の在庫リストを出力します。これは帳簿上の数字、同時にあるべき在庫の数字でもあります。この在庫リストを何人かで分けて担当し、各自が受け持ったリストの最上段の行から順番に現物に当たります。次にリストを見て、実際にその現物があるか否かを確認します。合致すれば○印なりチェックマークを付け、次の行に移ります。次の行の商品が現実に存在するか否かを確認します。数量が違っていればリストの数字を修正します。

お気づきのようにこのやり方は、リストに載っている商品が現実に存在するか否かを確認しているだけなのです。実際の現物を漏れなく数えているわけではないのです。ですから、現実にモノが存在しているのにリストに記載されていない商品にはほとんどが気付かず、カウント漏れとなってしまいます。現物があるのにリストに載っていないなんてケースあるの?と云うかもしれませんがこういうケースは結構あるものです。

実際に存在する商品を漏れも重複もなくカウントするにはどうしたらよいか、ということですが、在庫数がゼロの分も含めて全商品をリストに打ち出す、と云う方法も考えられますが弊害が多すぎお勧めできません。最善の方法は、まず現物をみてそれがリストにあるかどうか照合することです。漏れのないようにするには、各自の受け持ち区域を明確に定め、上の段から順番にかつ左から右へ、と云うようにブツに当たる順番を決めてそれを愚直に厳守することです。

リストの配列と現物の配列が大きく食い違っていると、照合に手間取ることになり、また、カウント担当者全員が全リストを持たねばならなくなります。担当区域の商品がリストのどこに記載されている分からないからです。こういったことも含めて事前の準備が必要になるので、リスト方式は一見やさしそうですが実はタグ方式よりもはるかに難しいのです。

今回は多くの企業で実施されているリスト方式の、重大な誤りについてお話いたしました。


前号 最新号 バックナンバー一覧 次号