第52号「引渡し基準」(2013年3月29日配信)

最近、身辺に面白い事件が起きないので久しぶりに会計の話をいたします。もともと会計・税務・経営に役立つ話しをメインとする意気込みでしたから、たまには良いのではないかと思います。会計に興味のない方はパスして下さい。

私が会計を勉強し始めた当初から疑問に思っていたことがあります。それは「収益」の計上基準です。「収益」すなわち代表的なものとして「売上」をいつ計上すべきかについて、会計の本にはアレコレ説明が記載されています。通常の物販は何基準、割賦販売は何基準、長期に亘る大規模工事の場合は何基準等いろいろな基準が登場しますが、要するに売上げは確実に「実現」したときに計上すべき、ということです。「ふんふんなるほど」と思いながら読みました。

ではどういう状態になったときが「実現」と云えるのかというと、物販業なら商品を相手に「引渡した時」という説明がされていて、「うん、確かにそうだ」とここまでは十分に納得出来たのです。ところがその先が全く不可解なのです。では「引渡した時」とは具体的にいつなのか、というと『「出荷した時」「相手の検収を受けた時」等から最適なものを選び、以後継続適用する』とか『出荷日が引渡し日である』などと書いてあるだけで、「出荷」がなぜ「引渡し」と言えるのかの説明が全くないのです。

例えば大量の商品をフェリーで運べば、3月31日に出荷して4月1日に得意先に到着と云うことは十分にありうる話です。3月末決算の会社でこうした売上が多額であれば、当期に計上するか来期に計上するかで経営成績は大きく異なってしまいます。

当時のことですからネットもなく、書店で会計の本をいろいろ調べるしかなかったのですが、例によって何冊調べてもある書物に載っていないことは他の書物でも触れていません。普通の人が普通に考えて疑問に思うことが本を書く人にとっては疑問でないのかも知れません。この金太郎飴ぶりは驚くほど徹底しています。表紙と値段が違うだけで、内容は殆ど同じなのです。

仕方がないので自分なりに考えて、日本では通常、出荷当日に相手方に届くという前提で、出荷日イコール引渡し日とみているのだろうと考えました。仮に商品をフェリーで離島へ届けるケースのように、出荷日の翌日、あるいは翌々日の到着であっても、いったん採用した基準を継続していれば恣意的な売上や利益の操作は起きないので、特に弊害はないということなのだろうと納得しておりました。

月日が経って、企業の経理担当の方々に、決算に当たっての留意事項等の説明をする機会をいただきました。会計の基本書を復習しようと大型書店で会計の本を物色しました。シックリ来る本がなく飽きてしまい、今度は法人税の本を物色し始めました。なんとなく手にとった「やさしい法人税(税務経理協会)鈴木基史著」をパラパラ見ていたらあったのです! 例の引渡し基準と出荷基準の説明が。

売上収益は引渡し日に計上すべきこと、多くの会社で出荷基準が採用されていること、出荷日は厳密な意味では引渡し日としてはフライング気味であるが相手方の検収日を把握するのが実は大変であることから出荷日が許容されていること等が記載されておりました。長い間求めていた恋人にあったような気持でした。特に必要な本ではなかったのですが、嬉しくて買い求めてしまいました。この本は、よく読んだらこれ以外にもいくつか有益な箇所があり、久しぶりのお買い得の本でした。


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