第43号「ダブルパンチ」(2013年1月26日配信)
世の中にはいろんな業界というのか集団があって、それぞれ独特の常識を有し、特有の考え方をすることがあります。そしてある業界での常識が他の業界から見ると非常識であったりするのは良く耳にするところです。今回は、私が税法を勉強し始めたころまごついたことをお話しようと思います。
税務ではダブルパンチと云う言葉が登場します。例えば、個人Aが会社甲を、Aの奥さんBが会社乙を経営しているとします。Aは甲社の全株式を、Bは乙社の全株式を所有(支配)しているとします。そして甲社は、はるか昔に1000万円で購入して今では時価3000万円になっている土地を、乙社に1000万円で売ったとします。これは身内会社同士だからこそ発生する取引であって、第三者間では通常は起こり得ない取引です。税法はこういった取引をどう捉えるのでしょうか。
税務の考えは以下のようになります。甲社は乙社にこの土地を、通常のように時価の3000万円で売って2000万円の譲渡益を上げたと考え、この譲渡益は課税の対象となります。しかしながら現実に甲社に入ったおカネは1000万円ですから差額分2000万円をどう考えるのかというと、甲社がその2000万円を乙社に寄付したとみなします。
乙社には2000万円の受贈益が発生し、これは課税対象となります。乙社は時価3000万円の土地を1000万円で手に入れたのだから課税もやむなしかな、と云う気がしますが、甲社は踏んだり蹴ったりになります。
甲社にとって、寄付金は経費だから譲渡益と経費と相殺されるから問題ないじゃないかと思うかも知れません。しかし、寄付金は原則として損金(経費)とならないのです。ですから甲社には譲渡益だけ残って、高い土地を安く手放したうえ、譲渡益に課税されるということになります。甲社、乙社どちらも課税され、まさしくダブルパンチを食らったことになります。
これと似たものに認定賞与と云うものがあります。会社が税金を減らそうとして売上の一部1000万円を除外して隠したとします。調査で見つかれば当然会社の売上に加算され、課税対象が増えます。同時にこの1000万円は売上代金として会社に入った後、社長へ賞与として支給されたと見做され、社長個人の所得税の課税対象も同額増えることになります。
会社にとって賞与は経費だから、売上と経費が相殺されて問題ないじゃないか、と思うかも知れません。しかし一定の条件を満たさないと、役員への賞与は会社の損金算入(経費)とはなりませんから、収益だけが増えて税金が増えることになります。これもダブルパンチです。
先に挙げた低廉譲渡に関してですが、税法には「会社は利益を追及する営利法人であって、明らかに損失をこうむる行為を進んでやるはずがない」という基本的な認識が背景にあるわけです。これに対して生身の人間は義理人情やらいろんな要因で行動し営利一辺倒ではないので、低廉譲渡に関して法人の場合とは扱いが違っています。
次の認定賞与についても、除外された売上は会社の売上に加算すべきは当然です。そしてそれが社長への賞与として会社の費用となるのであれば、売上隠しがバレても法人税は変わらず、となってしまいます。役員賞与の損金(経費)算入にいろいろ制約があるのは、止むを得ないと思います。全く制約がなかったらどういうことになるかは容易に想像できるところです。
身内会社間の低廉譲渡にしても認定賞与にしても、一見、世間一般の常識とは乖離しているようにもみえますが、よく考えると税務の考えのほうが理屈に合っていると思います。