第3号「実務的キャッシュフロー」(2012年4月14日配信)

キャッシュフロー計算書作成上のちょっと特異なポイントについては、当事務所ホームページの「おもしろ会計 第34話 キャッシュフロー計算書」で触れましたが、今回はこのキャッシュフロー「計算書」ではなく、キャッシュフローの概念が実務上いかに重要かについてお話ししようと思います。

キャッシュフロー計算書は、会社の資金の収支を、①営業活動による収支、②財務活動による収支、③投資活動による収支と大きく3つに分割し、それぞれの収支の関係から良好な状態であるとか、先行き不安であるとか、飛躍が期待できそうである等と評価の資料として利用します。そして、対応策を考えたり融資の可否等を判断したりするわけです。

具体的に言うと、①がプラスで②がマイナスならば、会社は本業で稼いだ資金で借入を返済しているわけですから好ましい状況と云うことになります。①がプラスで③がマイナスの場合も、会社は本業で稼いだ資金で設備投資のカネを賄っているということですからやはり好ましい状況と云うことになります。

逆に①がマイナスで②がプラスだと、会社は本業では資金を稼ぐことができず借入で賄っているということですから好ましくない状況と云えるわけです。このように、会社の経営成績や財政状態を把握・分析しようとする主として会社の部外者、融資銀行等の利害関係者の利用に役立ちます。

これとは多少異なる理解と利用の仕方が実務では重要です。このことを理解するには減価償却費、借入金の返済、キャッシュフローの3つの関係を理解することが好都合だと思います。

まず、キャッシュフローと云うのは現金・預金(以下、資金といいます)の動きに他ならないという事です。減価償却費という費用は、経費ですが資金は流出しません。逆に借入金元本の返済は、資金が流出しますが経費にはなりません。そしてどちらも人間の本能に馴染みにくいものだと思います。資金が100流出したら100経費になって、利益が100減少するというのが馴染みやすいのではないでしょうか。以下、事例で考えたいと思います。
Ⅰ まず、借入金なしで耐用年数10年の設備を1000で購入したとすれば、
定額法を採用するとして毎年の経費は、
減価償却費 100 (資金流出せず 経費)
となります。仮に会社の最終利益が±ゼロならば、資金的にはどうなるでしょうか?実は100の資金が残るのです。なぜなら、会社の利益=0と云うのは減価償却費100を差し引いた残りだからです。
資金が流出しない経費を100差し引いてなお赤字にならずゼロに止まったということは、資金に着目すれば100の余剰が出来ていることになります。利益ゼロでも資金が手許に残る、ということから「減価償却費の自己金融機能」などと言われることがあります。この状況をキャッシュフローが黒字である、というわけです。

Ⅱ 仮に10年の均等分割返済で1000の借入をし、これで耐用年数10年の設備を1000で購入したとすれば、
  借入金は10年均等返済とすれば、毎年の返済額は
元本返済額100(資金流出。経費にならず)
となり、経費はⅠと同様に定額法を採用すれば毎年の経費は
     減価償却費100(資金流出せず。経費)
となりますから、会社全体として年間100の経費で100の資金流出となるわけです。すなわち、毎年の元本返済額と減価償却費が等しければ、経費と資金流出が同額となって理解しやすくなります。

この状態で年間の最終利益がゼロ以上(つまり赤字ではない)ならば、借入返済は支障なく遂行できます。なぜならば、資金を流出させない経費(減価償却費)100を差し引いてなお利益がゼロ(赤字にはなっていない)と云うことは、返済実施前の資金に着目すれば100の手許余剰が出来ているということになるからです。この手許に残った100の資金を借入の返済に充てれば何の問題もないということで、キャッシュフローはバランスしているなどと言います。

Ⅲ 次に、減価償却費よりも借入金の返済が多い場合を考えましょう。Ⅱとおなじく1000の借入で耐用年数20年の倉庫を建てたとします。そうすると返済額と減価償却費の関係は以下のようになります。

借入金:10年均等返済 元本返済額100(資金流出。経費にならず)
  設備:耐用年数20年 定額法減価償却費50(資金流出せず。経費)

この状態で、年間の最終利益がゼロだとすると、手元に残る資金は50となります。なぜなら資金を流出させない経費(減価償却費)50を差し引いてなお利益がゼロ(赤字にはなっていない)と云うことは、返済実施前の資金に着目すれば50の手許余剰が出来ているということになるからです。この手許に残った50の資金で借入を返済することは不可能です。資金繰りの破綻です。

このⅢの状況を、キャッシュフローが赤字であるとかマイナスである、などといいます。こうならないように、つまり借入金の返済額が減価償却費を上回ることがないように設備投資および借入返済計画を立てなければなりません。キャッシュフロー計算書は企業の把握、将来の資金ぐりの予測に有用ですが、今すぐの資金繰りの判定に重要なのはⅠ~Ⅲで述べたキャッシュフローです。キャッシュフロー表ではありません。実務ではこの感覚は絶対に必要なものです。


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