第29号「易しい会計基準」(2012年10月19日配信)

 しばらく与太話が続きました。たまには企業経営に関わるお話もしないといけないので今回は久しぶりに表題のとおり会計のお話をいたします。

企業が国境を超えて活動するようになり、雇用・生産だけでなく資金調達に関しても国内のみならず海外でも行うようになっています。こうなると投資対象会社の決算書が世界共通の会計基準に準拠して作成されていなければ投資家は比較検討が出来ない、ということで各国ばらばらの会計基準の国際的調和化の動きが出てきました。
当初は先進国の民間会計団体が集まっての活動で強制力もなかったのですが、各国の証券市場監督機関が参加して以降は弾みがつき、21世紀に入ってからEUを中心に国際会計基準(のち国際財務報告基準=IFRS)の採用が拡大しています。
わが国では、国際会計基準との差異を解消する方向で日本基準を修正する「収斂(しゅうれん=コンバージェンス)」を進めている最中です。2015年からの上場企業への強制適用を2012年度中には決定すると見られていましたが、USAでの採用先送りもあって見通しが不透明です。ただ、2010年3月期から上場企業の連結財務諸表への任意適用は開始されています。

このように大企業向けの会計基準は多くの関係者が群がって作ったり調整したり解釈指針を作ったりするのですが、中小企業向けの会計基準はいまひとつあやふやでした。中小企業に対するIFRSの強制適用は全く無いと言われていますが、上場企業の連結対象子会社は勿論、大企業向けの会計がIFRSに近づくことにより中小企業会計も何らかの影響をうけると見なければなりません。
そういうなかで中小企業向けに「中小企業の会計に関する指針(以下、中小指針)」が2005年8月に公表されました。しかし難しくて経営の実態に合わないということで、これとは別に、中小企業経営者が理解でき対応可能で事務負担が最小限、かつ国際会計基準の影響を受けない新しい会計基準として「中小会計要領(以下、中小要領)」が作成され2012年の2月に公表されたのです。

この中小要領の策定では税理士や会計士といった会計専門家は話を難しくするばかりということで外され、中小企業団体や金融機関等からの代表者が策定主体だったと聞いております(会計専門家は作成実務を担当したようですが良くわかりません)。そこで中小要領がどんなものか興味しんしんで読んでみたのですが、非常に懐かしい内容でした。
中小指針は国際会計基準へのコンバージェンスを取り込んだ相当高いレベルなので、これと比べれば中小要領は確かに易しいと云えます。が、中小要領は一昔前まで中堅企業が商法および計算書類規則に準拠して作成した計算書類と殆ど変わらず、中小企業の経営成績・財政状態を示すには十分なレベルでした。ということは、これまで会計を難しいと感じていた経営者ならばこの中小要領を易しいとは感じないだろうし、積極的活用もしないのではないかと少し不安になりました。

 ところが中小要領公表後程なく、この中小要領の前文とも言うべき報告書が公表されナットクしました。この中小要領を普及・定着させるために中小企業庁等が本腰を入れて種々の支援をすることがうたわれていました。いろんな期間や団体による中小要領普及のための広報やセミナー、中小要領による計算書類を作成する中小企業に対する優遇金利、補助金採択での評価等も計画されているようです。
 中小企業を取り巻く経営環境は厳しくなる一方で、政府としてもほうっておけない状況になったと云うことでしょう。中小企業にとってはこうした支援策の多くは無料ですから積極的に活用し、信頼度の高い財務情報を迅速に集計できる体制を確立して経営に役立てて欲しいと思います。


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