第24号「気力が肝心」(2012年9月14日配信)

昔担当した簿記クラスに日商2級を受検するクラスがあり、その合格率について考える機会がありました。当時も今も、日商簿記2級検定の合格率は30~40%程度のようですが、このクラスの合格率は驚異的でした。というのも、平均20名のクラスで、良ければ全員合格、悪くとも18名は合格しており、昔からずっとその成績を維持していたのです。しかも与えられた期間は3ヶ月ですが、2週間程度は別の授業が組まれており、3ヶ月まるまる日商2級対策に使えるわけではないという状況下での成績なのです。

私はその当時、この成績を特に異常とも思わず普通に受け入れていたのですが、改めていろいろ考えてみました。好成績の原因はいくつか考えられます。まず、受検生は職場に在籍したまま選ばれてきていたので、自分が抜けたぶん同僚の負担が増しますが、本人もそのことは十分認識しています。
また、全員寮(個室)に入って仕事から完全に離脱しますから、受検勉強のための環境が恵まれていることは間違いありません。
しかしそれにしてもこのクラスの合格率は驚異であり、責任感や勉強の環境だけでは説明できるものではありません。

私は最大の要因は、従来から維持している平均合格率95%という数字だと思うのです。95%ということは、要するに20名中落ちるのは一人ということです。もし、自分がその一人になったらどうしようという精神的な重圧は相当なものであったに違いありません。重圧どころか恐怖であったろうと思います。
受検終了後、別の授業を2週間ほど受けますがその最終日あたりに受検の合否が発表になります。不合格者が途中で行方不明になったりせずきちんと職場に帰れるか非常に心配したものです。何所が出来なかったか分析し、何所に注意すれば次回合格できるかを説明し、半年後の再受検を促して帰しました。 

このようなクラスは学生にとって非常に酷であるという人がいるかも知れません。確かに私も胸が痛みましたが、かといってクラスを廃止すべきだと思ったことはありません。社会に出れば、自分の力量を超える局面にぶつかり逃げ出したくなるような経験は何度かあると思います。そのときにこの恐怖に満ちた2級受検クラスの体験はきっと役に立ち、間違いなく精神的な支えとなるはずです。

組織の仕事は、どうにもならないように思えることでも逃げずに取り組んでいれば意外なところから助けが入り、いずれ何とかなるものです。そしてそれが新たな自信につながり、成長していくのだと思います。

昨年息子が悪名高い三流病院でえらい誤診を受け大いなる迷惑を被った関係で、医療事故のニュースなどを注意してみています。事故を起こすのは民間病院ではなく、殆どが公的な病院のように感じます。公的病院の医師は身分が安定していて気持ちが緩んでいるのではないでしょうか。なるべくラクしておカネがもらえればいいという程度の考えではないでしょうか。民間病院は事故でも起こしたら即倒産だという意識があり、自ずと事故防止の体制作りをしているのだと思います。

受検だろうが仕事だろうがものごとをやっていく上で、人的・物的条件や環境も勿論大事ですが、もっとも大事なものは、やり遂げてやるという気力や緊張感ではなかろうかと改めて思いました。


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