第1号「代表執行役と代表取締役」(2012年3月31日配信)

 法律は一旦制定されるとなかなか変更は出来ないものですが、ビジネスの世界を規制する経済法がそういうことでは弊害が大きくなります。経済法が外部環境の変化に対応出来ずに旧態依然たる規制を振りかざしたのでは、日本だけが取り残されてしまうからです。

 例えば商法は平成2ケタ以降毎年のように改正されました。そして17年にはとてつもなく大きな改定がなされました。それまでの商法(以下、旧商法と記載)の主として株式会社に関する規定だった33条~500条がバッサリと削除されましたそしてこの部分は1000条近い条文からなる大部な「会社法」として生まれ変わったのです。

 旧商法は一本筋がとおっており、矛盾を感じることもありませんでした。それどころか理論的な美しさを感じたものです。それが複雑化する経済実態に合わせるべく度重なる改定が加えられ、ツギハギ状態で分かりにくくなった所で、抜本的な世紀の大改革と期待されたのが平成17年改訂だったのです。

 この改訂は形式面の変貌以上に実質的にも大きなものでした。旧商法を貫いていた首尾一貫性のある理論的な美しさが完全に壊されてしまいました。利害関係者の要望をあれもこれも受け入れて、無闇に膨大にかつ統一性のないものになってしまった、と個人的には感じています。

 各方面からの要望を幅広く取り込んでいることは認めますが、個人的には親しめないところが多々あります。要するに分かりにくいのです。平成18年5月施行ですから大分経っているのですが、最近になってやっと気が付いたことがあります。多くの方には旧知の事かも知れませんが、私としては発見したつもりでおりますのでお話し致します。

 会社の機関設計が多様になり、委員会設置会社という形態を選択できるのですが、この委員会設置会社は同時に執行役の設置が強制されます(402条1項)。そして執行役が複数名いるときは、取締役会は代表執行役を選定しなければなりません(420条)。また取締役会設置会社の取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければなりません(362条3項)

 そうすると委員会設置会社には、代表執行役と代表取締役の両方が存在しなければならなくなるのですが、両者の関係はどうなるのでしょうか。現実にそういう事例があるのでしょうか。代表執行役と社長の併存の実例は聞いたことがありますが、代表執行役と代表取締役との併存は寡聞にして聞いたことがありません。会社法施行後間もなくの話で、解説書も何冊か見ましたがはっきりしませんでした。ただ、執行役の権限等の規定から代表執行役と代表取締役の同時設置はないだろうとの感触はありました。

 不明のまま数年が経過し、最近になって以下の事に気が付きました。
 会社法は、株式会社の設立登記時の登記事項として「代表取締役の氏名及び住所」を挙げています(911条3項14号)が、この14号には「22号に規定する場合を除く」との条件が付されています。

 そこで911条3項22号をみてみると登記事項として「委員会設置会社であるときは、その旨および代表執行役の氏名及び住所」が掲げられているのです。

 これを素直に読めば、「代表取締役の住所・氏名を登記せよ。ただし委員会設置会社(=執行役設置会社)の場合は不要である。その代わり代表執行役の氏名・住所を登記せよ」という意味と解釈できます。

 代表権のない代表取締役(執行役)はあり得ません。そんな代表取締役(執行役)がいたら取引の安全が害されてしまいます。また代表取締役(執行役)がいるの に登記しなくていいということも有り得ません。同じく取引の安全を害するからです。すなわち代表取締役と代表執行役がいたら両者とも登記が強制されるはずです。ですから代表取締役を登記事項から除外するケースというのは、代表取締役が存在しないケースということ以外考えられません。

 そうすると、取締役会設置会社の取締役会は取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(362条3項)との規定をどう解釈するかという問題が残ります。会社法がこれだけいろんな機関設計のタイプを認めた以上、条文上も整理して並べているはずなので、399条より前の何十条かの規定は委員会非設置会社に関する規定、400条以降の何十条かは委員会設置会社に関する規定と分けているのだと思います。


最新号 バックナンバー一覧 次号