第34回「キャッシュフロー計算書」(2011年5月5日)

今回はキャッシュフロー計算書のお話です
会計の学習においてもやはりいくつかの壁があります。人にも依ると思いますが、通常の場合、大きな壁は一つは連結会計、税務、キャッシュフロー(以下、C/F)ではないかと思います。今回はみっつのうちのC/Fに関するとても有意義なお話です。

私が会計士になった頃は、持ち運びできるコンピュータが普及し始めた頃で、職場でもラップトップコンピュータ(膝に乗せるという意味のようです)を斡旋しており、私もフラフラと買ってしまいました。ワープロに毛が生えた程度のものですが、一台60万円で、半額は事務所が負担してくれましたが、残りの半額は個人負担でした。個人負担分は事務所が立て替えてくれ、3年ぐらいの月賦払いでした。

これほどの高い買物にもかかわらず、重さが5~6kgもあり持ち運びに不便で、殆ど使いませんでした。使わないから操作方法も覚えない、覚えないから使う気にならないという悪循環で、何年か保有しただけで結局捨ててしまいました。軽量かつ高機能のパソコンが出まわってきたからです。布製のケースは丈夫なので今でも使用しています。

そんなわけで、C/Fは電卓で集計して作成しておりましたが、私は電卓が下手で、C/Fはワークシート上で作るのですが、縦計と横計が合わないということがしょっちゅうでした。ちなみに第7回の「ちょっと役に立つ話」で触れたテクニックはその時教わったのです。さらに、電卓で作成する場合は、計算の各段階でプラスかマイナスかを慎重に判断しなければならず、これが私には結構ややこしくて面倒でした。

今はパソコンの表計算ソフトで作成しますが、初めに計算式を入れなければならず、その時1回だけですがやはりプラス、マイナスを慎重に検討しながら入力しないと正しい計算は出来ません。

電卓の技量以外に、C/Fが好きになれなかったもう一つの理由は、作成手法に対する不信感がありました。書物には、非常に単純な事例を使ったC/F作成方法が載っているだけで、その根拠をきちんと説明したものがなかった(と思われる)のです。心の底で「本当にこのやり方でいいんだろうか」と疑いつつ、それでも最終的に金額が合うからこれでいいんだな、と無理にナットクして作っていたのが実情でした。

まず、C/Fの作成方法ですが、当期のC/Fを作成するには、前期と当期の決算書を用意し、貸借対照表(以下、B/S)の各勘定科目の1年間の増減額(以下、「増減」)を算出します。

次に科目別「増減」を営業活動によるもの、財務活動によるもの、投資活動によるものの3項目にグルーピングします。C/F表の一番上に「税引前当期純利益」を記載し、その下にグルーピングした科目別「増減」を記載して加算していきます。

さらに、減価償却費や引当金繰入額は非資金費用だから加算する、支払利息を別掲するといったことをやるのですが、私はその度に、減価償却費も支払利息も「固定資産の増減」あるいは「税引前当期純利益」に反映されているのだからさらに別掲したら二重にならないか等の疑問を持ってしまうのです(専門外の方にはつまらない話で申し訳ありません)。

C/Fを前回作った時にじっくり考えて納得しているはずですが、なぜかC/Fは稀にしか作る機会がないので、次につくる頃にはすっかり忘れてしまうのです。思い出しては忘れ、思い出しては忘れの繰り返しでした。

税引前当期純利益および全B/S勘定科目の「増減」のみで当期の資金増減高となり、それで終了とすることも可能なのですが、「増減」だけでは支払利息とか借入・返済とか減価償却費といった重要な科目の詳細が見えてこないので、「増減」とは別に独立掲記させ、二重計上となった部分を何処かで調整する、あるいは別途情報を入手して詳細を示すということが必要になりますが、それだけの話なのです。

税引前当期純利益および全B/S勘定の「増減」のみで、当期の資金増減高を算出できる、という理屈は、以下に示すとおりです。
     
       図は後から挿入いたします。しばらくお待ちください。

ある会社のB/Sが、1年間の事業活動の結果、上図の(期首)から(期末)へと変化したとします。1年間の現預金の増減額はC´-Cで算出されますから
  現預金増減額=C´-C
=(B´+K´+当期利益 ― A´)―(B+K―A)
 =当期利益+(B´―B)+(K´―K)―(A´―A)
となります。

すなわち、当期利益にB/Sの全科目の「増減」を加減すればそれで重複も脱漏もない現預金の増減額となり、C/Fの大枠は完了であることがわかります。ここさえ押さえておけば、C/Fに損益計算書科目を記載すればそれは特別掲記したもので二重計上ですから何処かで調整が必要となるということも容易に理解できます。すなわち大枠の完成品をまず作成し、その大枠の範囲内で部分的な改良を加えていくといった感覚で進めていけるわけです。

ここのところに長いこと気づかずに仕事に追われ、数年前、学生に教える立場になって、本気で考えてやっと気づいたというお粗末な話でした。


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